「真実の愛」を上書きします

金峯蓮華

第1話 プロローグ

 ここはどこなのだろう? 真っ暗だ。


 ドライアイスのような白い煙がもくもくしている。


 確か、私はデートでドライブしていたはずだ。

 読んでいた小説「真実の愛」の文句を恋人の薫に話していた。感情移入しすぎてエキサイトしている私を冷静な薫が猛牛を落ち着かせるように色々な答えをかえしてくれていた。


 すぐに熱くなる私と違って、薫はいつも冷静沈着、公明正大な人なのだ。

すっかり毒気を抜かれて私は静かになってしまっていた。


 そんな時、前から逆走してきたトラックが猛スピードで突っ込んできて衝突したのよね。


私は多分死んだんだと思う。


 ここは天国? 


 まぁ、地獄に行くほど悪い事はしていないので多分天国だと思うけど、それにしては暗いな。


 足元の煙が白いのでかろうじてなんとなく見える。




 暗闇の中、私の目の前におじいさんが現れた。おじいさんは神さまか?


神さまは私の頭に杖をぽんと当てた。


「梨沙、お前は死ね前に『私がだったらもっと上手くやる。みんなまとめてざまぁしてやる』と言ってただろう。生前まぁまぁ良い事もしていたので夢を叶えてやろう。今から「真実の愛」の世界に転生させてやることにした。そこで生きるがよい」


えっ? そんなこと言われても困るよ。


 「ひとつ願いを聞いてやろう。何かあるか?」


ひとつか。何がいい? そうだ、薫だ。薫なら何とかしてくれるはず。


「神様、私と一緒に死んだはずの薫も転生させて下さい。私達はきっとみんなを幸せにします」


 薫が一緒なら何とかなる。私は神様に頭を下げた。


「それも面白いな。どんな話になるか楽しみにしておるぞ」


 そう言って私の目の前から消えた。


神様が消えたあと、私は何が何だかわからずその場に立ち尽くしていた。


「ねぇ、あなた、私になってくれませんこと?」

 急に目の前に現れた金髪の美女が私に私の手を取る。


「私はもう疲れてしまいましたの。

 あなた「真実の愛」の読者でいらしたでしょう? 

 生前はとてものめり込んでらしたようですし、是非私になってあなたの思う「真実の愛」に上書きして下さいませ。

 あなたが私になってくださるなら、神様に話をあなたの都合の良いようにしてもらいますわ。私になり、あなたの思うように動いてくださればよろしくてよ」


「えっ?」


  この人は何を言っているのだろう? ちゅうか誰よ?


「では、あとはお願いいたしますわね。ごきげんよう」

 

 金髪の美女はそう言って消えた。


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