第2章 ヴィラン城へ
第6話 誕生日
涙を拭いて、私は立ち上がり一歩を踏み出した瞬間、森は消えた。
森を抜けた先に広がるのは広大な草原。
でも、第2ミッションの内容に関する情報は来なかった。
「おーいビラ!!」
後ろを振り返るとティランがいた。
「ティラン!!ティランもミッションクリアしたの?」
「うん。さっきのアーサーを倒したから」
そうか。アーサーも【剣士】だったから倒せば、ミッションクリアとなるのか……。
「おめでとう。2人で行こうよ」
「うん」
私達はどこまでも広がる草原をひたすら歩き続けた。
すると、目の前にワイバーンが現れた。
レベルは30。
アーサーに比べればそんなに強くない。
「ビラってまだ炎の魔術しか使えないんだよね?」
「うん」
「だったらこれ、あげるよ」
ティランがくれたのは巻物のようなものだった。
「これって……」
「そこには水の魔術が書かれてる。さっき、森の中で拾ったんだ……。使ってみて」
その巻物を読んだ私は目を閉じた。
その巻物には水を感じろと書かれていた。
真っ黒な世界。
その中にかすかに見える魔法の杖。
その魔法の杖に1滴の水が葉っぱから落ちてきた。
「水の魔術!!」
そう叫んだ瞬間、魔法の杖から水鉄砲のように勢いよく水が飛び出し、ワイバーンの体力を半分まで削ることに成功した。
反動ダメージも少しずつ減っている気がする。
「じゃあ私も行くよ。炎の魔術!!」
ティランが炎の魔術を放つと空に虹ができ、ワイバーンは倒れた。
「綺麗な虹だね」
「水と炎を同時に打つとたまに虹が出来るんだ。その虹が出ている間は攻撃力が2倍になるんだ」
ティランは何でも知ってるんだな。
ティランがの凄さを改めて知った。
倒れたワイバーンからカセットが6枚出てきた。
私とティランの2人で倒した事からカセットは半分で分けることにした。
そして、枚数は20枚に。
ついに2枚目の写真が浮かび上がる。その写真は……。
「ビラ、何か思い出したの?」
「私のお父さん……」
新たに1つ記憶が蘇った。
「今日は真澄の15歳の誕生日だね」
お母さんがそう言ってケーキを机の上に置いた。
「うん」
私は誕生日を祝われるのはあまり好きでは無かった。思春期ということもあって恥ずかしかった。
「これ、真澄に誕生日プレゼント」
お母さんがくれた誕生日プレゼントは、1枚の四葉のクローバーだった。
「これだけ?」
「うん。今、お金が無くて……。ごめんね。でも、昨日の深夜にお父さんが必死に川沿いを探してくれたのよ」
私は反抗期を迎えていて、お父さんのことが好きでは無かった。
でも、その言葉を聞いた瞬間、私はお父さんのことを少しだけ好きになった。感謝を伝えないと……。
「お父さんはいつ帰ってくるの?」
「今日は仕事の打ち合わせで飲むらしいから。少し遅くなると思うよ」
「じゃあケーキはお父さんが帰ってから食べよう」
「うん」
プルルル プルルル
「お父さんから電話がきたよ」
お母さんが嬉しそうに私に言ってきた。そして、電話を始めた。
お父さんはケーキを買おうか迷っていたらしく電話をしてきたらしい。
「大丈夫よ。もうケーキは買ってあるから」
「分かった。今、駅のホームにいるから。もうすぐ帰るよ」
「うん。待ってるよ」
お母さんとお父さんの電話が終わってから2時間が経った。既に0時を回っていた。
「お父さん、遅くない?」
「うん」
お母さんも不安な顔をしていた。
そして、掛かってきた1件の警察からの電話。
そこでお父さんが駅のホームで落とされて死んだと聞かされた。
私は四葉を強く握りしめ、泣き崩れた。
そして、お父さんとの最後の会話を思い出していた。
お父さんとの最後の会話は、昨日の事だった。
「ねえ、誕生日プレゼントにスマホ買ってよ」
「うちの家はお金がないからダメ!!」
お父さんに私が誕生日プレゼントにスマホが欲しいとおねだりをしたが、聞いてくれなかった。
「何で!?お父さんだって毎日、飲みに行ってるじゃん。何でお金が無いなんて嘘つくの……」
「嘘じゃない……本当だ」
「じゃあお父さんがタバコを辞めて、ビールも酒も辞めてくれたら良い話だろ!!」
「黙れ!!タバコは吸わないと生きていけないんだよ。僕の生活に口を挟むな!!」
それ以降、お父さんとは話さなかった。
でも、お父さんはその後、私のために夜遅くまで四葉を探してくれたんだ。私が幸せになれるようにと。
スマホに表示された第2ミッション。
「城の地下に捕まっているお父さんを探せ」
私のポケットの中には四葉のクローバーが入っていた。
お父さんもやっぱり異世界転生してたんだ。
でも、どうして城の地下に捕まってるんだろう。
広大な草原を抜けた先には小さな町があった。
〔現在の記憶のカセットの枚数 20枚〕
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