第5話 戦いの中、訪れる別れ
アーサーが大きな剣を持ち、私の所に近づいてくる。
まずは逃げながらチャンスが来たら一撃で倒すしかない。
私は森の中をとにかく逃げ回った。アーサーはずっと私を追いかけている。
「あった!!」
目の前に見えたのは黄金に輝く宝箱だった。
『モンスターが中に入っている可能性もあるから、注意しろよ』
クロンの言っていた言葉を思い出した。もしかしたら罠かもしれない。
でも、ここでモンスターが出れば、私はもう負けだ……。お願い。
私は神に祈りながら、宝箱を開けた。その中には、魔法の秘伝書と回復の薬が2個入っていた。
代々伝わる最強の技 炎の秘術
魔法の杖を前に出し、力を込める。
そして、倒したい相手を強く念じる。
この技は誰かを助けるために使う事。それ以外では使ってはならない。それ以外で使った場合、この技は発動しない。この技の反動ダメージは魔術の2倍。使う時は死を覚悟しろ。
それを読んでいる間に、アーサーは私の背後まで迫っていた。
「何を読んでいるんだ?」
「お前を倒す秘伝の技だ」
「俺を倒すなんて無理だ……。お前はまだレベル17。俺に勝てるはずが無いだろ?大人しく倒れろ」
「いや……クロンがお前の体力を半分削ってくれた。だから勝てる!!2人でお前に勝つ」
正直、この秘術を使うのは怖い。死を覚悟しないといけない。
魔術であれだけ反動ダメージがあったのだから。秘術は私の想像を遥かに超える反動ダメージだろう。それでも、クロンを助けるため。
クロンは最後まで戦ってくれたんだ。私も戦わないと……。魔法の杖を前に出して、力を込めた。
倒す敵はアーサー。
「最強の技……炎の秘術!!」
大声で言った瞬間、魔法の杖が一気に熱くなった。そして、先端から出る青い炎。
青い炎はアーサーに直撃して、アーサーは悲鳴を上げた。それと同時に、反動ダメージが来た。
私は倒れてしまった。霞む視界の中、声が聞こえた。
「こんな技で俺を倒せると思ったか……」
アーサーはギリギリの体力で生きていた。もう負けだ。
ゲームオーバーだ。私は死を覚悟した。
アーサーの剣は私の胸に近づく。その瞬間、思い出したのは前世の記憶だった。
『あなたは誰ですか?』
『私は……お前を殺しにきた』
私って……誰かに刺されてここに来たんだ……。前世で死ぬ瞬間、私は犯人の顔を一瞬見た気がする。
でも、今は何も思い出せない。まあそんな事を考えても仕方ないよね。
もう私は死ぬのだから。
「タイムストップ!!」
誰かの声が聞こえてきた。そして、時が止まった。私の目の前でアーサーの剣が止まった。
「大丈夫?」
声をかけてきたのは1人の中学生ぐらいの女の子だった。
「大丈夫ですけど、あなたは?」
「私はティラン。あなたと同じ【魔法使い】よ」
「私はビラ。よろしくお願いします」
「リカバリーフレッシュ」
ティランが魔法の杖を私に向けてそう唱えた。すると、今まで無かった体力が回復した。
「ありがとう……。すごいですね」
こんなに【魔法使い】の中にも凄い人がいるんだ。
「ありがとう。今からあいつを倒すよ」
ティランはそう言うと、魔法の杖を前に出して、
「草の魔術!!」
と唱えた瞬間、アーサーの周りに草が一気に生えて伸び始めた。
まだアーサーの時は止まっている。
動く気配は一切しない。
「炎の魔術!!」
その草に炎が当たり、炎の威力はさらに強くなる。
「タイムストップ解除」
アーサーは動き出した瞬間、悲鳴を上げて倒れてしまった。
「ありがとう……」
「どういたしまして。それより助けたい人がいるんじゃ無いの?」
クロン……。私は森の奥へと走り出した。この戦いで20分は使ってしまった。
もう居ないかもしれない。森の奥の切り株の上にクロンは眠っていた。体は既に消えかけていた。
「クロン……いや海斗!!」
「…………真澄?」
「お願い……生きて。これ、回復の薬……」
回復の薬を海斗に飲ませたが、回復する気配は無かった。
「何で?何で回復しないの?」
「もうタイムリミットなんだ……。なあ、お前のミッションは【剣士】を倒す事だろ?僕にとどめを刺せばきっとミッションは達成できるよ……」
「え……何言ってるの?私にとどめを刺せるはず無いよ……。だって海斗のことが好きだから」
「お願い。僕のために生きて。だって僕は、真澄のことが好きだから……」
『お願い。私のために生きて。だって私は、海斗のことが好きだから……』
それは私が言ったセリフだよ……。涙を流しながら、私は海斗の持っていた剣で消えかけている胸を刺した。
「海斗……ありがとう」
「こちらこそありがとう。出会えて嬉しかったよ。最後まで頑張って……」
そう言いながら海斗は消えていった。涙がこぼれ落ちる。
涙で霞む視界の中、スマホからミッション達成という文字が出ていた。
海斗に会えて良かったよ。本当に……。
また来世で会おう。今度は私が海斗を守るから。
〔現在の記憶のカセットの枚数 17枚〕
《第1章 完結》
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