天照

@Dokkn11

第1話

 大都会の中心で、とある男が人々から注目を浴びていた。


 年齢は20歳、体型は中肉中背で、顔立ちは整っているが誰もが振り返る程ではない。

 かといって俳優やプロスポーツ選手といった著名人でもなかった。


 にも関わらず男は人々の視線を独占した。


 その理由は、言ってしまえば男が全裸だからだろう。公衆の面前で成人男性が生まれたままの姿で闊歩しているのだから、目を奪われざるを得なかった。


 全裸男を見た反応は様々だった。

 悲鳴をあげる、事態を飲み込めず絶句する、冷ややかな視線を送る、警察に通報する、嘲笑う、中にはスマートフォンのカメラで撮影する者もいた。


 いずれにせよ、その場にいた全員が全裸男に共通の印象を抱いていた。「社会から逸脱した好ましくない存在である」と。


 やがて彼には、あらゆる形で破滅が押し寄せるだろう。法によって裁かれ、実名をニュースで報道され、インターネット上で彼を批判する者も続出する筈だ。


 しかしそんな事、男はお構いなしだった。

 人としての尊厳も、社会的地位も、全て捨て去らねばならぬ事など百も承知で全裸になったのだ。


「人集まってきたしそろそろ始めっか」


 男はボソッと呟いた。そして彼は、群衆が自らを撮影する為に向けてきたスマートフォンのカメラに向かってピースサインし、口火を切った。


「えー!オレの本名は庭鳥にわとり鳥太郎とりたろうです!馬鹿みてえな名前だから覚えやすいだろ!」


 豪胆にも声を大にして名乗りを上げた。己の破滅を早める愚行に群衆はどよめく。


「好きな食い物は焼き鳥!」


 男は言葉を続けた。


「嫌いなものはイジメ!」


 どよめく人だかりなど意にも介さず、


「夢は偉い社長に雇われて〜楽な仕事して悠々自適な毎日を送ることで〜す!よろしくお願いします!」


 さながら転校初日の小学生のような自己紹介を言い終えた。呆気に取られる人々をよそに、一呼吸置くと彼は脱兎の如く駆け出してその場を後にする。


 全裸男こと庭鳥 鳥太郎。彼には脱がねばならぬ理由があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る