齊国の雄図

 それから八年。


 七つの国がせいに降り、五つの国がけいゆうと同じ途を辿った。


 この間に、せいの支配する地域は、実に全大陸の二分の一に及び、同じように領土を拡げたちょうりょうの二国と、勢力を分ける形となった。


 勢力が強まれば領土が拡大し、領土が拡大するほど、王の支配は届きにくくなる。


 直接的な武力行使より、搦手からの諜報戦が大きな意味をもつようになった。


 鳳凱ほうがいは戦場における数々の功績によって、耀よう王から光武こうぶ将軍の称号を授けられ、古参、新参にかかわらず、多くの武将から崇敬を集めた。


 だが、同じ頃、三国の端に位置する緑林りょくりんの地に、滅ぼされた各国の敗残兵らが集まって徒党を組み、寨を築いて立てこもった。


 緑林りょくりんは、ちょうせいりょうの三国のそれぞれに跨る広大な森林地帯で、守るに易く攻めるに難い複雑な地形であった。


 国を滅ぼされた怨みを胸に、食いつめた浪人たちが山賊と化し、通りかかる者達を片っ端から襲って、金を奪い、荷を奪い、女を奪って売り飛ばした。


 恐れた人々が避けて寄りつかなくなると、今度は国境を越えて各国へ侵入し、附近の街で暴れ狂った。


 民には何の罪もないが、国を滅ぼされた彼らにとって、完全に正当なる復讐なのであった。


 緑林衆りょくりんしゅうと呼ばれるその浪人達は、大陸全土から漂着し、国を失った理由も異なるが、その原因を作った敵国への怒りと怨念は相通じ、その一点のみで、いかなる絆よりも固く結びついていた。


 緑林衆りょくりんしゅうが復讐を誓う敵は各々違い、どの国を優先して討つべきか容易に意見がまとまらなかったが、彼らを統率し、三大国打倒を唱えて立ち上がったのが、当時はまだ無名の将にすぎなかった槍使いの岳賦がくふであった。


 岳賦がくふ自身はどこの国にも属したことはなかったが、緑林衆りょくりんしゅうの身の上には同情して、彼らの復讐に力を貸していた。


 岳賦がくふらの行動は、どの国にとってもまごうことなき反乱であり、各国はみな討伐軍を組織して、これを討つべく兵を送ったものの、岳賦がくふは賊軍を指揮して、巧みに撃退した。

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