課金が完了しました

@zelcoba

課金が完了しました

 1日目


 朝財布の中を確認したときに、私は知らない1000円札が入っていることに気がついた。


 昨日財布の中には万券しか入っていなかったはずなのだが、、、勘違いしていたのだろうか?まあとはいえ1000円程度、特に気にすることもないだろう。そう考え私はそのまま朝支度を済ませ家を出ていく。職場に到着したときにはもう、増えた1000円札のことなど覚えてなど居なかった。




 2日目


 今日も私は財布の金が増えていることに気がついた。しかもその額は2000円と増えていたのだ。1日なら勘違いで済むのだが、こう連続で不思議なことが起こると少し不気味である。だが、所詮は2000円。昨日と合わせても3000円だ。少ない額では当然無いのだが、それについて気に病むのもまた過剰ではないだろうか。昨日は飲み会があったのだし、また勘違いしたのだろう。不気味ではあるが、私はその増えた金について考ることはそこで止めることにした。




 3日目


 「何だこれ」


 私は財布の中に増えた3000円を見て、そう言葉を漏らした。今日は3000円。気になるのは金の出処だ。昨日は飲み会なんかもなかったし、更に昨日の夜に財布の中を空にしてから寝たのだ。なのに朝起きて財布の中を覗いてみると中から1000円札が3枚はらりと出てきたのである。流石に勘違いではないだろう。ストーカーでもいるのだろうか?私はそう考えて戦慄する。だが、特に著名人でもない自分にストーカーというのもおかしな話た。次の休日に警察にでも行ってみようか。そこまで考えたときに、今の時間がいつも家を出る時間をとうに過ぎていることに気がづいた。


 「ヤバい、遅刻だ!!」


 私はそう叫ぶと朝食を食べることも忘れて急いで家を飛び出していった。




 4日目


 流石に恐怖を感じる。朝当然のように財布に入ってる4000円を見てそう思う。日増しに金額が増して行っている。なにか関係があるのだろうか。金の出処は相変わらずわからないままで、不気味さも増していく。ストーカーでもいるのだろうか。真実味のないそんな仮説が、真実味を帯びてしまうような現状を前に私は青い顔をして縮み上がる。


 「だ、誰かいるなら出てこい!!こんなことになんの意味があるんだ!!」


 部屋に中に私のの怒号が響き渡る。返事は無く、シンとした静寂だけが部屋の中に広がっている。そんな光景を前に私は恐怖に見舞われながら、朝支度を手早く進めると家から出ていった。




 5日目


 「、、い、、、おい!!佐藤!!」


 同僚の突然の声に体がビクリと反応する。私は一時的に業務を止めると同僚の方へ振り向いた。スーツを軽く着こなす彼は、仕事もできるし仲間の気遣いもできるといういわゆる”できる奴”だ。当然私も嫌いではない。というか休日に一緒に遊びに行くほどの仲である。そんな彼は私の顔をじっと見つめると不安そうな顔をして口を開いた。


 「お前、最近大丈夫か?ボーっとしているときが多いし、ミスも多いっていうじゃないか。なんか悩み事でもあるのか?」


 彼の言葉は優しく、彼ならば真面目に悩みを聞いてくれるだろうか。そんな期待を持ち、私は彼に増えていく金のことについて話してみることにした。


 「、、、なるほど。それはなかなかに不気味だな。そうだな、まずは監視カメラでもつけてみたらどうだ?そしたら以外に簡単に犯人がわかるかもしれない。」


 一通り話し終えると、彼はそんな提案をしてきた。 


 なるほど、カメラか。明日は休みなのだし、監視カメラなるものを買いに行ってもいいかもしれない。私がそう考えていると、彼は更に言葉を継ぎ足してきた。


 「にしても、、、なんだかゲームの課金みたいだな。ほら、ゲームの課金ってログインを繰り返すたびにもらえる報酬がでかくなってくみたいのもあるしさ。」


 ゲーム?確かにそんなようなものもあるのかもしれ無い。だが、もしこれが課金のようなものなら一体私は何を支払っているのだろうか?それが一番気になるのだが、結局わからずじまいてその日は終わってしまった。




 6日目


 土曜日。やっとの休日に私は警察に出向いてみることにした。なお、財布の中には当然のように6000円が入っていた。


 


 「んー。とりあえず伝達だけはしときますけど、、、なにせこの件は”被害”が無いので、事件としてカウントするのはちょっとむずいかもっすね。」


 警察署の受付に今回のことの事情を説明すると、奥から若い男が出てきてこのように説明してきた。


 「まあ、なんか進展があったらまた言ってください。とりあえず今回はうちでは取り扱いに困るっす」


 何が”とりあえず”だ、と苛立ちが湧き上がってくるが、まあ確かに被害ではないのだから彼の言っていることは正しいのかもしれない。私はそう考え怒りを抑えると警察署をあとにするのであった。




 7日目


 私は財布の中に7000円が入っていることを確認すると、昨日の夜に設置した監視カメラの映像を確認した。カメラは昨日、警察に行った帰り道に電気屋に行って買ってきたのだ。これでなにかを掴みたいが、、、


 「何も写っていない、、、、?」


 いや、そんなはずは無いはずだ。必ず何かが写り込んでいるはずだ。いや、写り込んで居なければならないのだ。もしも本当に写り込んでいないとするならば、幽霊か何かの仕業となってしまう。私は背筋に寒気を感じた。


 「いや、だが幽霊などいるはずが、、、」


 口から言い訳のような声が出る。私は幽霊など信じていないのだ。だが、何も居ないのに不思議と財布の金が増えるなど、それこそ幽霊の仕業としか言えないではないか。そこまで考え、気休めにしかならないかもしれないが、私はお祓いに行ってみることにした。




 「金が、増える、、、、ですか?ならその財布は呪いというよりも祝福を授かっているのでは?」


 寺の坊主が私の話を聞いてそう聞いてきた。祝福か。確かにそうかも知れない。だが、祝福ならはっきりと祝福と分かるようにしてほしいものだ。知らないうちに金が増えるなど、一見聞くと嬉しい奇跡のように感じるが、不気味なのである。


 「ま、まあ、一応お祓いはしますけど、、、」


 そう言うと坊主はブツブツと何かを呟きながらお経を唱え始めたのであった。








 20日目


 最近になってだが、私は増えた金を使ってみることにした。今までは不気味で使えなかったのだが、毎日増えていく金に誘惑が勝てなかったのだ。不思議なことに一度使ってみると恐怖心はすっかりなくなってしまった。最初は軽く100円使っただけなのだが、恐怖心がなくなればもうその制限もなくなるのだ。今では日給を超えたこの金を使い、前より充実した日々を送っている。最初のうちに自分の中だけにしていた意味のない言い訳も今となってはしなくなった。金の湧く理由もわからずじまいだ。だが、金が出てくればそれでいいのではないかと思えてきたのである。そんなことを思いながら今日も私は出勤していく。






 100日目


 私は会社を辞めた。馬鹿らしくなったのだ。1日必死に働いても手に入る金は1万5000円程度。何もしなくたって、1日10万も出てくる財布があるのだ。会社なんて行く意味無いだろう。私は昼間から酒と遊びに明け暮れる怠惰な人間になっていた。




 600日目


 深夜12時。きらびやかな部屋の中の金庫の中で財布は最後の60万円を吐き出した。もうこの財布が金を出すことなくなったのだ。


 「課金、完了しました」


 異常なほどに静寂に包まれた部屋の中で、寝についていた男に福音が届いた。その声は機械的で、まるでゲームのシステムのようなそんな冷たさを感じさせる声であった。


 朝、自堕落な男の生活は終わりを迎えていた。大きなベットから冷たくなった男の手がだらりと垂れていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

課金が完了しました @zelcoba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ