第44話 帝炎舞


 炎が円の形になって僕とオッサンを囲った。


 これがオッサンのフィールドなんだろう。


 炎の使った空間操作がオッサンの才能。


帝炎舞エンペラーイグニッション


 炎の熱でクラクラする頭に痺れを切らした僕は、両手で頬を叩く。



 頬がジンジンするけど、これでオッサンの情報を見れそうだ。


 オッサンの空間操作により、外の空奏の魔術師も入れないフィールドで、僕はあっけらかんと軽口叩く。


「僕が負けるのはわかってます」


「月夜の休憩と逃げる為の時間稼ぎか?」


「はい。空奏の魔術師たちの前だから啖呵を切っちゃいましたけど、空奏の魔術師を倒すって、自分自身がそんなの無理と分かっていますし」


 炎のフィールドで僕の言っていることが外には漏れないと分かると、弱音を吐いた。


「因みに僕が一発殴ったら空奏の魔術師たちを連れて帰ってくれないですかね?」


「無理だな」


 そうか、無理か。


「オッサンか〜、もう少し弱い相手からの方が良いんだけど」


「俺じゃダメか?」


「なんで最初からラスボスと戦わないといけないんだよ。チェンジとか出来る?」


 ワハハと豪快に笑うオッサン。


 ひとしきり笑い終えたら、真面目な顔を作って一言。



「殺したくない」



 その一言には空奏の魔術師の、オッサンの、想いが全て詰まっているように感じた。


 でも。


「月夜先輩は昨日まで立派な空奏の魔術師として勤めていたんですよ。オッサンは月夜先輩を諦められますか? 諦められるんなら、僕はなんでもやります。僕の力を未来永劫と空奏の魔術師のために使います。どうですか? 僕が言うのもなんですが、相当に有望な人材と思いますよ」


「それをこの俺に言わせるのか」


 悔しいような表情に見せるオッサン。


「ほら、オッサンは本当の空奏の魔術師なんですよ。本当にどうしようもなくね」


 話は終わりだと、瞳に意志を込める。




 この炎のフィールドは僕にとっては不利なフィールドだ。


 戦闘向きじゃない僕にとっては多対一でも一対一でも、不利というのは変わらないけど。


 炎の動きまで共有の情報にしなくてはいけなくなる。


 世界の景色がガラスみたいに固まる。


 オッサンは見ているだけで、何にもしてこない。


 様子見か。


 僕は後ろに下がって、円の形になってる炎のフィールドの一柱を、コンコンとノックする。


 すると炎の姿をしたまま壊れ落ちる。


 壊れた炎の一柱は伝染し、炎のフィールドは跡形もなく崩れた。


 オッサンの見れば、つぐんでいた口を開けて驚いたような顔をしていた。


 次は僕のフィールドが権限する。


 未来の僕と違って、現在に有る情報を想像で塗り替えるような事は、逆立ちしたって無理だ。


 じゃあ、無理じゃない所までレベルを上げたらいいんじゃないか?



 さぁ、行こうか。



開発限解放スキルアジャスト



 可能性の裏側へ。



 僕を起点に時が止まったガラスは砕け散り、どこまでも真っ暗な闇の中、上下左右は星の灯りが散らばってある。


 星が色を放つ世界で、重量はなくなり空中に浮かぶ。


 僕は擬似宇宙を作り出した。


 擬似宇宙だから空気はあるけど、そこまでやると脳がパンクする。


 僕が酸素がないと生きられないっていう理由もあるけど。


「この前の模擬戦で雰囲気が変わった時に見せた幻か。面白い!」


 僕は面白くない。


 空中に浮いているオッサンは、足から炎を噴出し僕に近付いて来る。


 空中を飛ぶオッサンは速い。


 戦闘の経験値はオッサンの方が上。


 それは勿論知っている。


 オッサンが右手を炎で纏って、僕の顔面目掛けて拳を撃ってきた。


 僕は左手で余裕に受け止めた。



 その余裕に受け止めた僕は消え、対角線上に左手を負傷した僕が現れる。


 いってぇ、あの炎どんだけ威力あんだよ。


「模擬戦の時の方が強かったのか?」


 オッサンの勘が冴えてる。オッサンの勘とか誰得なんだよ。


「模擬戦の時、明らかに才能の圧を感じた。自信と才能の力が、今のお前とは段違いだ」


 オッサンクラスになると、一度見せただけでバレるのか。


「お前の才能の制限かどうかは知らんが、さっさと本気を出せ! 本気を出さずに俺と戦うんだったら、時間稼ぎにもならんぞ!」


 空奏の魔術師にノーマルスキルで戦っていた未来の僕は空奏の魔術師を舐めていた。


 今の僕は時間を稼ぐ事も出来ないのか。


 だけど、やってみないと……。



「おい、俺も空奏の魔術師を遊びでやってる訳じゃないんだよ」



 僕が瞳を瞬きした瞬間に、オッサンは僕の左肩に炎を纏った左手を乗せる。


 えっ……。


 結構な距離があったはずだ。


 僕の周りはオッサンの炎でガッチリで囲われてる。



「一発目」



 オッサンが炎の纏った右拳に力を入れながら、一言呟いた。


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