第16話 登校デート

◇◇◇◇



 今日も今日とて学校に行こう!


 僕の家はマンションで一人で暮らしている。


 お婆さんが僕を独り立ちさせる為に、今から慣れてた方がいいと家を追い出した。


 お婆さんの優しさは僕が一番わかってる。


 僕の健康を気遣って、毎日の食卓に嫌いな物が沢山用意されてたり、年頃な僕の洗濯物だけを優先的に別けてくれていたり、嫌な顔一つせずにじいちゃんが亡くなっても育ててくれた。


 僕と顔を合わせる度に歳のせいか舌打ちでチッ! と鳴らす癖があるのが心配なくらいか。


 部屋の鍵を掛けて、一番左の部屋から中央に位置するエレベーターに行き、お婆さんの事を思いながら最上階の八階からエレベーターで一階に降りる。



 昨日の赤星さんとのデートは楽しかった。


 カラオケ屋を出た後は直ぐに解散したが。


「日影様お待ちしておりました」


 マンションの影から顔を覗かせて、白井さんが声を掛けてきた。


 何故、僕の住所が!


「それはですね。担任の方に日影様の住所を聞いたらすんなり教えてくれましたよ」


 僕のプライバシーどうなってるんだ?


 まぁ、美少女に出待ちされるのは悪くない。


「僕に何の用?」


「ただ一緒に登校しようと思っただけですよ。ダメ……ですか?」


 潤んだ瞳で上目遣いは反則だろ! でも僕は清楚系お嬢様な美少女だからって動揺したりはしない。


 僕は手の平を白井さんにみせる。


「ど、ど、どうぞ」


 どうぞってなんだぁぁぁぉ! 


 キョドりまくった挙句にどうぞって何?


 白井さんは周りをキョロキョロと見渡して顔を真っ赤に染める。


 そして僕の手の平に白井さんはスっと左手を置いた。


「公の場で異性の方と手を繋ぐ機会なんて無かったもので、恥ずかしいです」


 えっ? 何? 僕の周りにはピュアな娘しかいないのか。


「ごめん!」


 僕は直ぐに手を戻そうとするがギュッと捕まえられる。


「い、嫌とは言ってないですよ」


 そ、そ、そ、そうですか。


 心の声までキョドりそうだ。


 平常心、平常心と何度も心の中で唱える。


 ぎこちなく僕達は歩き出した。


 白井さんは顔を伏せたままでコチラを見ようともしない。


 登校デートだ! 


 僕もプレイボーイ力が上がってきたな。


「あの、ですね」


 唐突に白井さんが口を開く。


「日影様の才能の『共感覚ラビット』で、あの時私に何を見せたのですか?」


 あの時? 


 白井さんと戦った時の事か。


「あれは僕がクラスメイトの黒川と戦った時に見た光景をそのまま白井さんに見せたんだよ。黒川は時止め系の才能を持ってたって言えば、なんとなく想像がつくかな」


「森とグラウンドが重なって見えたのはそのせいなのですかね? そして視覚を混乱させた」


「そう! 黒川の才能を使った状態の視覚と、白井さんの視覚を繋げたんだ。直接体感している物じゃなくて、共有してる物だから見てたら慣れるし、白井さんが目を瞑ってなければ矢は命中してた。まぁ電車とかで酔う人には効果的だけどね。僕は運が良かった」


「運ですか?」


 ふふっと白井さんは笑うと、「そういう事にして置きます」と言葉を添える。


「日影様にはもう少し頑張ってもらわないといけないですね」

 

 え? 僕はそんなに頑張り屋さんじゃないよ。


「模擬戦争の対抗戦の代表者に推薦しておきました」


「僕の能力知ってるだろ? 戦闘向きじゃない。僕はそんなに強くない」


 そう僕は人気者にもなれないし、日の影に隠れて生きるような奴で、しかもノーマルスキルの所有者だ。


 ただの一般人でしかない。


「日影様知らないんですか? 私は知ってますよ」


 僕の言葉に悪戯っぽく笑う彼女は、手を繋いだまま小走りで僕の前に立つ。



「私よりも日影様は強い事を私は、誰よりも知っています」



 僕を唆す悪女は緑山さんだけじゃなかったようだ。


 こんな美少女に尊敬の眼差しを向けられて、それに答えない男が居るだろうか?



「辞退させてください」



 僕は僕以外そんな男を知らない。


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