電車内で他校の生徒が告白してきたのだが!

加藤 忍

エピソード1 初会話

「あのぉ~、すみません。これ、貴方の生徒手帳ですよね?」


「よかったぁ~、ちゃんと帰りの電車でお渡しできて」


「実は今朝、電車から降りる貴方の鞄からこれが落ちるのが見えて。急いで拾って渡そうと思ったんですけど、一足先にドアが閉まってしまって」


「本来なら駅員さんに渡すか、交番に届けた方がいいのかなって思ったんですけど、どうしても直接お渡ししたくて」


「「どうして俺がこの電車に乗っているとわかったのか?」ですか?」


「実は貴方のことは前々からお見掛けしていたんです。帰りに見かけるときはいつもこの時間だったので、きっと今日もこの時間の電車に乗ればお渡しできると思いまして」


「・・・あの、お隣に座ってもいいですか?」


「では失礼します」


「・・・あの、私のこと覚えていたりしませんか?白い制服にチェック柄のスカートとネクタイ。かなり印象的な制服を着ていると思うのですが?」


「・・・あ、そうです!あの時貴方に痴漢から助けてもらった者です。すみません、お礼を言うのが遅れてしまって。あの時はありがとうございました」


「通勤ラッシュで誰かの手が当たったり、誰かに押されたりするのはよくあることですので、仕方がないと思ってました。あの日も最初は電車の揺れで私のお尻に手が当たってしまったのだろうって思っていたんです」


「でもその手は私のお尻から離れることはなくって、掌で私のお尻を掴んできたんです。顔もわからない誰かに後ろから痴漢されていることがとても怖くて、助けを呼ぶ声すら出なかったんです」


「そんなときに横に居た貴方が私の後ろの人にスマホのカメラを向けてくれたんです。そのおかげで痴漢をしていた人が私から離れていったんです。そのときすぐにお礼を言おうとしたのですが、貴方が開いたドアからすぐに外に出てしまって言えずじまいだったんです」


「それから何回かお見掛けしたのですが、声をかける勇気が無くて。いつも少し離れたところからあなたを見ているだけの日々でした」


「それで今朝、生徒手帳を拾ったとき「これは神様が私にくれたチャンスなんだ」って思ったんです」


「大げさ?そんなことないです。これを拾わなければ、私は貴方とお話しをすることもお礼を言うこともできなかったのですから。だから大げさなんかじゃないです」


「それで、ですね。・・・助けてもらったあの日から、その・・・あ、貴方のことを好き、になってしまいました」


「そ、そうですよね。いきなり名前も知らない女の子から告白されても困りますよね。ごめんなさい」


「でも、私の気持ちは本当なんです。行きや帰りに貴方を見かけるだけで嬉しくなってしまうんです。どんな食べ物が好きなんだろう?趣味はなにかな?学校ではどんな風に過ごしているんだろうって。毎日毎日、貴方を見ながら想像してしまうぐらいに、貴方に惹かれてしまったんです」


「なので、私とお友達から初めてくれませんか?」


「・・・ほ、本当ですか!?ありがとうございます」


「あ!自己紹介がまだでしたね。私はS女子高に通う2年、野咲のざき紫音しおんって言います」


「N高の2年。ってことは、私と同い年だったんですね。大人っぽい雰囲気がしていたので先輩なのかと思ってました」


「お世辞なんかじゃないですよ。・・・あ、もうすぐ降りる駅ですよね。あの、連絡先交換してくれませんか?・・・はい、じゃあ私がQRコード読み込みますね」


「貴方のアイコンの小さな白い鳥、首を傾げている姿が可愛いですね。なんていう鳥ですか?」


「シマエナガ?って言うんですね。北海道の固有種なんですか?初めて聞きました」


「・・・駅、着いちゃいましたね。・・・あの!明日も声、かけていいですか?」


「はい、ではまた明日」






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