第6話

6話

◉最初に教わったアレ


 コテツは麻雀をしない日が無かった。高校の友達とセットが組める日はセットでやって、集まらない日は1人で練習。研究熱心なコテツは1人で4人分の牌を並べて毎日毎日1人麻雀を飽きもせずに何時間でもやった。


 月日が経つにつれ仲間が集まらない日が次第に増えてきた。というのも、コテツが仲間内で強くなり過ぎてずっと負けてる方は面白く無くなってしまったからだ。

 ある日ついにコテツはハンデを要求される。「5000点よこせ。それならやっていい」と言う。コテツは「仕方ないな」と5000点を出した。20000点あれば充分だという自信があったのでそれくらいのハンデは別に大丈夫だなと思ったのだ。すると他の2人も5000点を要求してくることになる。10000点スタートだ。聞いたことない大ハンデ。それでもコテツはその条件を飲む事にする。事実、そのハンデを始めた初回は東1局に6000オールを引きアガって即刻チャラにしてしまう。

 そんな経緯がありコテツはもうこのセットをやるのは無理があるなと感じて今後はフリーで打つことにしようと決意した。

 まずは0.5くらいがちょうどいいかなと思って0.5と1.0のツーレートの店を見つけてそこに入ってみることに。

 初めてのフリー麻雀体験は緊張もあったがそれと同時に(25000点スタートならだいぶ楽だな)とも思っていた。何せしばらくの期間は3人が30000点持ちで自分だけ10000点スタートという麻雀をやっていたのである。そんな中で勝ち抜いていたコテツにとって25000持ちは既に倍満をアガったくらいの点数でのスタートなので非常に気楽だった。並の鍛え方ではない。

「リーチ!」「ツモ!」「リーチ!」「ロン!」「リーチ!」「リーチ!」「ツモ!!」

 コテツの猛攻が決まる。

(結局フリーもセットも大差ないな。音聴いてりゃダマテンにもそう簡単には振り込むことないし楽勝だ)とコテツは思ったという。

「何この子?本当にフリー初めてなの?アキラの時とは大違いだね」と立番をしてる2人が話していた。アキラというのはいま対面にいる大人しい感じのアルバイトの子の事のようだ。ここまで彼は放銃なしリーチなしでダマで1回ツモアガリしたが基本的にひたすら耐えているだけであった。

「やめてくださいよマサルさん」とアキラくんが照れながら言う。マサルさんと言うのはこの店のマネージャーの方の事のようだ。若く見えるがこの店舗を任されているらしい。立派だ。

 とりあえず初回はコテツが圧倒して終わりかなと思ったそのオーラス。


「…ツモ」


 アキラが11巡目に手を開く。


一九①⑨119南西北白発中 東


(ああ……これがあの19字牌全部揃えたらアガリっていう最初に教わったアレかあ。かっこいいな。初めて見た…)


 唐突に役満。ダントツを200点差捲られた。



「1卓ラストです!優勝会社失礼しました!」


 コテツはこの時のアキラに魅せられて富士2号店に通うことになる。そしてマネージャーのマサルともまた、これから先の麻雀人生において長い付き合いの友人になる。だがこの時はそんな事は知る由もない。ただひたすら思ったことは。面白い!強い相手との麻雀は本当に面白い!と、負けた麻雀を目一杯味わっていた。そうだよ、負けない勝負なんか楽しくない。麻雀は負けるから楽しいんだ。そうこなくっちゃ!

 強い相手を前にして麻雀熱がさらに熱く燃え上がるのをコテツは感じていたしアキラもまたコテツとの麻雀を心底楽しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る