8
不思議なことにグロックに装填されている9ミリパラベラム弾は、いくら放っても残弾数が尽きることがなかった。
どういった仕組みか皆目検討もつかないが、全弾消費しても即座に補給された状態に戻る。銃器はおろか、弾の入手さえ容易ではない日本でこの摩訶不思議な構造をした拳銃が一丁存在するだけで、相当な大金が動くのは確実だった。
アイリスのなかで拳銃は最先端の魔法道具という位置づけに収まったようだが、確かに弾が尽きないという機能は魔法となんら遜色がな異様に思える。
それと二つとない性能を持つがゆえに、常に肌見放さず泥棒には気をつけたほうがいいとアイリスから忠告を受けた。
「それで話を戻しますけど、サカナシさんの出身地はどちらなんですか?」
「そこまで知りたいなら教えてやる。俺は別の世界から訳あってやってきたんだよ。自分でも言っててバカバカしい限りだがな」
「別の世界って……まさかサカナシさんって、異世界から召喚された勇者様なんですか?」
「魔法使いの次は勇者と来たか。あのな、俺は元の世界で一度殺されたんだよ」
「え……」
よほど衝撃的だったのか、アイリスは言葉をなくしてしばらくの間、顔を伏せて押し黙ってしまった。夜空には吉兆か、それと凶兆か――流れ星が一つ流れ落ちていった。
「死んだ俺は、天国だか地獄だかよくわからんところで、ある男に二度目の人生をやり直す
「サカナシさんほどの方を殺害する
「墓参りをしててな、油断してたとはいえ背後から拳銃で撃たれた。そいつは俺と、俺の恩人をも殺した憎き
復讐を果たすためだけに人生をやり直したんだよ――そう伝えると、アイリスは語気を荒げて強く否定した。
「でも……サカナシさんがなんと言おうと、僕を助けてくれたことに変わりはありません。今でも山賊の方々を殺さなくてよかったのでは、と思うところはありますけど……」
「その胸焼けするほど甘い考えは、とっとと捨て去ったほうがいいぞ。さっきも言ったが俺はヤクザだ。他人の不幸で飯を食って、弱者を踏み台にして伸し上がる。
歩調を早めて答えると、負けじと速度を上げて隣にぴったり寄り添い続けるアイリスは、なおも抵抗をみせる。
「僕は、僕が目にした現実を信じます。サカナシさんは僕を助けてくれた。それが唯一無二の真実なんですから」
「……ふん。好きにすればいい。それよりお前こそどうして捕まっていたんだ」
特に知りたいわけでもなかったが、口から突いて出た問いかけに一瞬、表情を曇らせたのを無悪は見逃さなかった。散々人には個人的な質門をぶつけてきた割に、はぐらかす様子を見て〝訳アリか〟と、鼻を鳴らすと本人は誤魔化すように前方を指指して口を開いた。
「見えてきましたよ! あれがエペ村です」
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