第32話 王妃との攻防
マリーカは、何とか交渉に漕ぎ着ける糸口を探るべく、方針を切り替える事にした。
「恐れながら、フォルセ様。御質問の御許しを。」
「ああ。当然だろうな。」
「ルーナ様は、どちらに。居なくなられたとは、どのような事なのでしょうか。」
「うむ……。」
フォルセは、思い悩むかのように、苦々しい渋顔を作ると、深い溜息を吐いた。何と説明したものか。そんな風に逡巡しているのであろう事がありありと伝わる表情だった。
しかしそれは、ほんの少しの間。
だが、フォルセが言い淀んだ隙に、レーナがここぞといった風に口を挟む。
「前王妃ですか。あの方、障害持ちを産んだ上に、次子を作る事を拒んだそうで。その様な事、とても王妃に相応しいとは思えぬ、愚かしい暴挙ですわ。
当然、王はお困りになられました。王妃がその様な態では、王家の血筋が途絶えてしまいます。
そこでワタクシに第二王妃としてお声が掛かりましたのよ。
ですが、そのまま御請しては、アルヴの為にはなりません。その様な使えぬ第一王妃などは不要です。
ワタクシがすぐさま後継をお産みするという条件で、無能者は追放していただきましたわ。」
「つ……追放……?!」
マリーカは、目の前が真っ暗になる思いがした。
そして、怒りの感情が燃え盛る炎の如く、渦巻く。
「フォルセ様!何故!?何故その様な惨い仕打ちを!?
追放ならば、せめて……せめて私の元へ送って頂いてもよろしいではないですか!!」
マリーカは、ルーナに対する仕打ちを納得し、受け容れる事が出来なかった。そして激しくフォルセを問い質すのだが、またも横槍が入る。
「貴女……何を仰っているのかしら?前王妃は、寿命が短いという訳ではないのですわよ?既に樹の枯れた障害持ちとは違いますの。そんな長寿の者を貴女に押し付けてしまえば、貴女が此方へ戻って来られないでしょう?ですから、どこへなりとも好きに行っていただいただけの事。お分かりいただけましたか?
稀有な才を持つ貴女は、有効活用されてしかるべきですわ。これも良い機会です。早急に王館にお戻りなさいな。」
「レーナ。言い過ぎだ。」
「あら。王がお答えされませんでしたので、ワタクシがご説明差し上げたのですよ?何か間違いがございましたか?仰りたい事でも?」
「私はルーナの生命までをも奪おうとは思ってはいない。」
「ええ。勿論ですとも。ですからワタクシも、処刑ではなく追放という条件に譲歩したではありませんか。」
この二人のやり取りを目の当たりにし、マリーカは大凡の事を察した。所謂、権力闘争というものだ。
フォルセの婚姻の際も、相手がルーナと決まる迄に色々とあった。幾人かの候補の中には、このレーナも居たように記憶している。
元は鉱石の産地であるルゴン村の村長の娘だったはずだ。それが、後継の居ない大臣家の養子となったのだったか。それもおそらくは、権力闘争の一環だったのだろうが……。
しかしまさかここまでの性格の持ち主だったとは。
ルーナの為に今すぐ王館へ戻れという話ならば、一考したであろう。だが、このレーナ新王妃に仕えるなど到底容認出来る事では無い。
マリーカは、思案する。
とにかく旅にさえ出てしまえれば、良いのだ。
ユウナに事情を話し、ルーナを捜索する事も出来るだろう。
だが、今の状況をどうすれば乗り切れるのか……。
「フォルセ様。」
「なんだ。」
「恐れながら申し上げます。
私が200年以上も忠義を尽くしました王家ではありますが、その殆どはルーナ様との時間でございました。
そのルーナ様が追放という事でしたら、私もそれに従い、追放処分としていただきたく存じ上げます。」
「な……なんだと?!」
王佐の才を持つマリーカは、その異能を持つという事が王家に伝わった時点で、その身の自由は奪われる。
それを名誉と捉える者も居るが、マリーカはそうでは無かった。自身がヴァルの地に居る間に、両親が死んでしまった事も影響しているだろう。
「なりません。貴女は、王家の為に尽くすべき者です。」
マリーカは、またもフォルセの代わりといわんばかりに答えるレーナに辟易とする。マリーカは、王と話に来たのであって、性悪な新王妃と話に来たのでは無いのだ。
「では、フォルセ様。当初の御約束通り、ユウナ様の行く末を見守った後、戻らせていただくという事でよろしいですね。」
「あ、ああ。旅に出るのだったな。どうせ100年も無いのだ。好きにすれば良い。ユウナの最期を見届けて、報告せよ。」
「畏まりました。多大なる温情感謝いたします。」
「うむ。下がってよい。」
その一言を受け、マリーカは、フォルセに礼を取り、退室した。その背に向かい「使用人風情が!」という罵声が飛んで来たが、どうでも良かった。
そんな事より、予定より遅くなってしまった。ユウナ達の方が早く着いているかも知れない。
マリーカは、足早に館を出た。
目的を遂げたという達成感と、ユウナと共に旅が出来るという期待感、そして、ルーナを案じる気持ちで、マリーカは門へと続く道を無意識に急いでいた。
そして、門が見えた瞬間異変に気付く。
多数の兵士が門前を固める様に屯していたのだ。
入る時には居なかった者達だ。嫌な予感しかしない。
レーナ王妃の手回しなのだろうと、マリーカは思った。
考えられる事としては、自分を拘束する目的か、殺害する目的というところか。前者であるなら、ユウナを殺す迄の時間稼ぎか、ただ自分を捕まえるつもりなのか、というところだろうか。
後者は、可能性としては低いかとは思うのだが……。
問題は、このまま進んでみるか、門を通らず脱出するかという事だ。情報は欲しいが、下手に近付いては脱出に失敗する可能性が高まる。
マリーカは、門から出る事を諦めた。
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