第15話 訓練開始!


「はぁ……はぁ……はぁ……。

マリーカさん!走ってきたよ!」


「はい。お疲れ様でした。では、身体の柔軟性を高める運動をしましょうか。

お手伝い致します。こちらへ。」


狩の日の翌日から、午前中は訓練の時間になった。

身体作りと、体術の訓練。

マリーカさんが、丁寧に指導してくれる。


マリーカさんの指示通りに座る。何だか見知った格好だった。とはいえ、やった事はなかったけれど……。


「うぅっ……!?いたたたた……!」


「ユウナ様は、まだお生まれになられたばかりですから、柔軟性は鍛えやすいと思います。」


股割り?というのかな。座った状態で脚を開いて、上半身を前へ……マリーカさんが、私の背中を押してくれてるんだけど……


痛い!さ、裂けそう……!あ、な、何かが出ちゃいそう……!(涙)


でも、柔軟性は攻撃にも防御にも重要だって、マリーカさんが言ってた。頑張らないと……!


「はい、息を吐いてください――」


「ふう~~……いたたたた……!」


股関節だけでなく、その後も全身余すこと無く柔軟運動をした。

そのどれもが、ものすごく痛かった……。


でも、頑張って、柔らかエルフに、私はなる!


――


「では、体術ですね。」


「はい!」


いよいよ体術!

体術っていうと、アチョーって感じなのかなって思ってたけど、全然違ってた。


「……このように、相手により効果的な攻撃方法が異なります。」


マリーカさんの説明は、難しかった。


要約すると……

①地の利を活かす

②相手の構造・勢いを活かす

③自分の得意・優位を活かす

そんな感じみたい。


難しい……けど、頑張らないと。

私、魔法使えないんだし。

格闘王に、私はなる!


それからお昼まで、ひたすら対人型ひとがたの対処術の動きを練習した。

ゆっくりと、動きの意味を確認するように、何度も何度も繰り返した。


――


「よう!ユウナちゃん!聞いたぜ?狩りに付いてって危なかったんだってなぁー!俺の武器を待たねぇからだぞー?」


「ダーインさん!」


お昼寝の時間が終わった頃だった。わざわざダーインさんが訪ねてきてくれた。

同じ村内だから、そんなに遠くは無いけれど、こちら側には何も無くて、わざわざ来る村人は少ないのに。


「あら、ダーイン。今日は腕利き鍛冶師の仕事は良いのですか?」


「ふふん。これを見やがれ!」


ダーインさんが差し出したのは、布に包まれた、短いけれど、すごく幅の広い短剣だった。まるで卓球のラケットを尖らせたように幅広だ。


「えっ?もう出来たんですか?」


「おうよ!俺は仕事も早いからな!もちろん、手は抜いてないぜ?なんてったって腕利き鍛冶師の仕事だからな!見てみるかい?」


「はい!」


ダーインさんに手渡されたそれは、とても軽かった。

慎重に包みを開けると……


「わぁー……綺麗……」


氷のように透明な刃が付いた、美しい短剣だった。

向こう側が透けて見える。なにこれ!すごい!


持ち手の部分も、変わった形をしていて、真ん中の持ち手の両サイドにも、鍔が延長されたようになっている。手の保護用かな?


「かっかっかっ!どうよ?いい出来だろー?

それはな、素材も良いんだが、俺の異能も使って仕上げてある。

ユウナちゃん。短剣に向かって、"突"って言ってみな!」


「へ……?と、"突"」


すると、短剣は、シュッと伸びて針のような剣になった。えぇぇ!!すごいんですけど?!


「なにこれ!すごい!」


「それはな、持ち主の声に反応して形を変える武器だ!何にでもなるぜ?」


「えぇぇ!!そんな事あるの?!」


「まぁ、俺が本気を出したらこんなもんよ!」


事も無げにそう言って、ダーインさんはドンと胸を叩く。なんだかそんな仕草が良く似合う。


それにしても……

どんな武器にも変化する武器……かぁ。

確かに、それならどんな武器がいいか分からない私にも、作れるよね。

ダーインさんって、ホントにすごいなぁ!天才鍛冶師だ!


「ダーイン……。あなた、こんな国宝級の物を……。」


マリーカさんも、とても驚いている様子だった。


「なんだぁ?マリーカ。文句でもあるのかぁ?」


「いえ……。文句なんて……。ありがとう。」


「いや……。そもそも、それはユウナちゃんに献上される予定だった素材だ。なんて事ぁ無いさ。」


この武器も、ハーナルさんの作ってくれた防具も、元々王家への献上品になる予定の物だったそうだ。


王妃の出産に合わせて集められた、貴重な素材達。

私の為に、元々作る予定だったもの。


でも、私は村人になった。魔法も使えない障害持ちエルフだったから。廃嫡?っていうんだっけ?王位継承権も剥奪された。


だから、貴重な素材を使うだなんて、そんな必要は無くなったのに。


ハーナルさん達も、ダーインさんも、惜しみなくすごい物を私の為に作ってくれた。

引越し祝いだと言って。


なんか、お礼がしたいな。何がいいかな?考えよう。

今すぐじゃなくてもいいから、喜んでもらえる事。


「ダーインさん!ありがとう!」


「おう!しっかり使い込んでくんな!」


そう言ってダーインさんは帰って行った。


「ユウナ様。せっかくですから、武器術も特訓しましょうか。」


「え?ホントに?!」


「もちろんです。私がお教え出来ない武器種は、誰か代わりを見つけねばなりませんが。」


「そんなに一気に出来ないから、順番に……」


「ふふふ……。そうですね。」


結局その日は、夕方まで武器術の訓練をした。

これからは毎日頑張るんだ!

柔らか格闘武器エルフに、私はなる!

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