模部 秀麗【もぶ しゅうれい】

 僕の名前は模部秀麗、ただの高校一年生だ。

 この世には負け組と勝ち組が存在して、僕は中学の頃から負け組だった。


 休み時間はいつも自分の席で本を読んだり、たまに図書室に顔を出したりしていた。歩くのが面倒くさかったので、近所の高校に入学した。


 そんな僕の周りは変わらない。中学の頃から顔合わせするメンツは変わったとしても、中身は似た様な奴ばかりが集まってくる。


 だが、それでいい。余計な事を考えてエネルギーを消費するくらいなら、最初からしなければいい。


 僕は今日も教室で本を読みながら心の中で呪文のように唱えながら、靴箱から上履きを取り出そうとした。


「ん……」


 僕は朝一番とても不愉快な気分になった。僕の靴箱の中に恋文が入っていたのだ、これで何度目だろう。


「はぁ……」


 わざわざ手紙に甘い香りの香水までふりかけるなんて、女子の振りをした男子が僕の事をからかって入れてきたんだろう。


 いつもこの手紙は、職員室前にあるゴミ箱の中に入れている。教室に行く前に職員室の前によるなんて、まったく無駄な体力をつかわせてくれるな。


「わ!わわわ、わわわ模部くんだぁ!おは!」

「……」


 職員室前にあるゴミ箱を漁っている、同じクラスの女子の姿を目撃してしまった……名前は確か


「好捕彼 愛守【すとか あいす】……」

「わぁ!!名前呼んでくれたァ!!うれしぃ〜な」


 好捕彼はぴょんぴょん兎のようにその場で飛び跳ねると僕に指をさして、「すき」と言ってきた。


 すきってなんだ?隙?隙間、ズボンのチャックか。僕はいつも癖毛で丸メガネかけてて、顔にはあまり気を使っていないが、服には気を使ってるつもりだ。確認したがズボンのチャックは閉まっている。


 そんな僕の様子を見て好捕彼は両手で自分のほっぺたを抑えてユラユラ左右に体を揺らしている。なんだ、何がいいたい?


 僕は好捕彼の切りそろえられたパッツン前髪を見ながら「どうした?」と聞いた。彼女は体をピタッと停止させて、僕の右手に持ってる恋文を一瞥した後、胸の前でハートの形をつくり「愛してる」と言う。


 いや、聞き間違いだろ。僕はもう一度彼女にどうした、と聞く。するとムッとした表情になり突然僕に飛びつくと「好き好き好き好き!!だーいすき!愛してる♡」と顔を僕の胸元に擦り付けながら、甘えるような声でそう言ってきた。


 わけがわからない、好きなんて言われた事ないし、この手紙もイタズラかと思ってずっと捨ててきてたし、申し訳ない。


「好捕彼さん……僕はうれしいよ」


 すると僕から降りて、にパっ!と赤ん坊のように明るい笑顔で見上げてきた。


「うれしぃ〜!meも嬉し」

「うん、だけど僕は付き合う気はない。それは好捕彼さんだけじゃなくて、恋愛とか僕が興味無いって事なんだ。ごめんね」


 あの笑顔を見た後にこれを言うと、罪悪感に心が蝕まれ好捕彼さんの顔を見れないな。だから面倒くさいことはイヤなんだ。女子はいつもそうだから、自分の理想を押し付けて、そうじゃなかったら被害者ズラして泣いて離れていく。きっと好捕彼さんもそうだ。


「meも〜♡恋愛とか興味無いよ〜」

「へ?どういう……そう、いや、いみわからんよ」


 予想外のこたえが返ってきて、素っ頓狂な声が漏れ出てしまった。好捕彼さんは僕を置いて独特な世界観を語る。


「模部くんが生きてるだけで好きなの!模部くんは好きの概念で愛の塊なんだよ♡だからねmeの愛を模部くんにぶつけるだけでいいの〜!」


 僕には理解することの出来ない事を聞き続けて、頭がショートした僕は、「わかった」と一言放って、頭をおさえた。


 その一言が原因で毎日好捕彼さんから好きの一方的なドッチボール対決が始まるとも知らずに

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