第6話
ライズを見送った後、俺も俺でやらねばならない事がある。この世界で幅を利かせるには何よりも強さが必要だ。
俺の、ネロの扱える魔法は闇属性が主体になる。闇属性とは妨害や隠密が主だ。その辺の雑魚や並みの中ボス相手に敗けやしないが、終盤の高難度ボスとなれば話は別だ。
何を隠そうこのネロ、中盤に六魔天全員を吸収した状態で現れるボスなのだが、いかんせんイベントボスで簡単に突破されてしまう。設定上では結構強い状態なのだが、勇者の聖剣獲得イベントという王道に轢き殺されてしまうのだ。
そして六魔天を吸収していない、ネロ単品の性能は負けイベントを強要してくるだけであり、ボスとしては現れていない。一応自分のやれる事は確認したが、本当に妨害と隠密に偏っていた。
一応、闇を司るソウルを持っているだけはあり、攻撃手段も無くはないが、いかんせん効率が悪い。威力だけのロマン技とゲームの時も言われていたのを思い出す。
そう――――ならばどうするか。簡単だ、火力不足と過剰消費を一気に解消してくれる装備の在処を知っているのだから。
「さて……と」
ここは闇の神殿。ゲームも終盤に差し掛かった頃、六魔天を全滅させ、残るは魔王を倒すのみ。その時に各種、俺達六魔天のソウルを所持しているとそれぞれの神殿に入る事が出来る。
最強のソウルは前述した風のソウルがぶっ壊れているが、武器の方は闇の俺だ。
そんな神殿の仰々しい入口の真横、何の変哲も無い壁の前に立つ。
「バージョンチェックだ」
この壁に体を擦り付けながら天を仰ぐと体が神殿の奥の宝箱の中に吹き飛ばされるのだ。
だが残念ながらこのグリッチは現在のバージョンでは修正されてしまった。だからこそ、この技が出来るかどうかで今後の方針も変わってくる。
「ふん……ほっ……! おら……!」
壁に手を擦り付けながら天を仰ぐ。エモートを連打。エモートを連打。コートの左肘の部分が擦り切れて穴が空いてしまっても連打。
「無理っぽい……か?」
この壁抜けグリッチは幾度となくやって来た。幾らゲーム画面とは違う角度だとしても、これ程連続で失敗はしない。
この世界は最新のバージョンで間違い無いらしい。
「まっ、だったら正攻法で行けばいいか」
向き直り、通常の入口の方へ向かう。この神殿はネロの闇のソウルが無ければ開かない。ならば簡単、実物を持っている俺が直接赴けば良いのだ。
「バージョンチェックは終了……あとは……」
中の大広間に居る俺の上位互換、【
本来ならば倒さなければならないのだが、ここにも致命的なバグが存在している。左手の壁に接触している竜の像に触れながら闇魔法で隠密状態になるとあらゆるエネミーから識別されない状態になるのだ。
「やあ、どうも。カッコ良いね、それじゃ」
闇の霧を体から漂わせ、体のあちらこちらに紅の鎧を身に纏っている伝説の竜。ネロのソウルの真なる姿らしい。今の俺が挑めば秒殺されるのがオチだろう。
なんなく奥の宝箱へ到着し、早速目的の品を手に取る。
「【
これこそがこのゲーム最強武器。武器から出る霧で物理攻撃九割カット。魔法攻撃を半減。闇の属性魔法の威力を三倍にし、消費魔力が半減。おまけの様に与えられるステータス三倍。最後の最後に手に入れられる、最強のぶっ壊れ武器。
次に訪れるのは広間でボスが崩れ去る音。取得した剣に直結したボスはたったそれだけで経験値とソウルへと変換されるのだ。
俺のソウルの格が上がる。勇者や魔王の様にソウルを吸収する事は出来ないが、このボスが持っていたのは元々俺のソウルだ。
武器から吹き出す紅黒の霧に包まれているだけで底知れぬ高揚感が湧いて来る。ソウル、武器、この二つが揃った事で俺は今間違いなくこのゲームで最強の存在となった。
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