俺を好きにならないで!~相思相愛の呪いを掛けられまして~
ぬこ暖房
第1話
あなたは意中の相手と絶対に結ばれる方法があると聞いてどう感じるだろうか?
うらやましい?知りたい?
まあ、概ねポジティブな反応が返ってくるだろう。
だがそれが、
うん?意味が分からない?そうかそうか、なら一例を挙げよう。
これはその呪いを受けた知り合いから聞いたんだが、そいつの初恋は保育園の先生だったらしい。物心ついたころに初めて出会った優しくしてくれる異性だ。案外初恋が先生だったやつも多いんじゃねえか?とはいえ、そいつの初恋は一瞬のうちに終わってしまった。
恋心を自覚した瞬間、先生が保育士にあるまじき女の顔をしたことによってな!
子供ながらに理解した、先生がなんだか怖い!と。そしてその疑念は先生がトイレに無理やり連れ込もうとした時点で確信に変わった。相手は女性とはいえ成人だ。なすすべもなくあわや、といったところでたまたま通りがかった園長先生が止めてくれなければ、決して癒えないトラウマを負っていただろう。結局その先生は諸々の現行犯によって即解雇。「あんなにいい先生に見えたのに」という周りの疑念を残しつつ、その初恋は刑事事件として前代未聞の終わりを迎えた。
さて、もう一度問おう。
あなたは意中の相手と絶対に結ばれる方法があると聞いてどう感じるだろうか?
答えは、
代わってくださいお願いします。
とだけ言っておこう。
ん?あぁ。
もちろん、知り合いの話だけどね。
~~~~~~~
俺の名前は
どうして?????
それを察知し保護してくれたのは、今も有力な陰陽師が残る土御門家だった。現代にそんな非科学的な現象があるのは、己の身に起きていることを考えれば受け入れざるを得なかった。そもそも俺は土御門家の遠すぎる遠縁にあたるらしい。呪いを受けた陰陽師の血が濃い土御門家では呪いの隔世遺伝はよくあるらしく、対策を胎児の時点で施すことで無害化している。が、末端も末端である分家の、さらに駆け落ちした奴の子孫なぞ把握しているわけもない。結果として、それまで無効にされ続けた呪いの怨念も相まって、呪いは強力に発現した。俺に。
どうしてなんですか?????
まったくもって事故と言うほかないが、発現してしまったものはしょうがない。強い呪いは犯罪や悪霊を呼び寄せる。それに対抗するため、俺には護衛が土御門家から派遣されていた。毎日黒服のいかついあんちゃんに護衛されながら通学する生徒。他生徒から見たらやはり近づきにくい異質な存在だったのだろう。いじめられることこそなかったものの、小中学校では友達は一人もできなかった。
さて、ここで呪いについて話しておこう。俺が受けた呪いはその名も「相思相愛の呪い」。効果はそのまま、「好意を向けた異性と相思相愛になる」だ。あれ?と思った人もいるだろう。悪いところある?と。
甘い、甘すぎる。
これは呪いだ。本人の意思と関係なく影響を及ぼす呪いなのだ。俺が少しでも異性に好意を持ったとする。その相手は次の瞬間には俺に絶大な好意を向けている。盲目的な好意は、その場で性行為を求め、邪魔を倫理や理性を無視したあらゆる方法で排除するような、不気味で危険なものだ。
ただの通行人がそうなったのを見て、俺はこの呪いを心の底から嫌悪した。だから、どんなに辛くてもメンタルトレーニングは欠かしたことがないし、できるだけ女性を意識から締め出した。そうした自身の努力と、呪いを抑える最高級の道具を用いることでようやく抑えることが可能だった。
そんな俺が生まれてからずっと憧れているもの。それは、普通の生活を送ることだ。もちろん自分の危険性は自分が一番に理解していたので、そんなわがままもなかなか言えたものではなかった。だが、訓練によってある程度呪いの抑制が可能になったことにより、高校進学を機に護衛無しでの生活をしてもよいとの沙汰が土御門家から出た。もちろん無条件とはいかなかったが、異質なイメージが定着してしまった環境から抜け出す機会を得たのだ。普通の生活ができるチャンスだった。
それから、高校に進学するため慣れ親しんだ故郷を離れ、都会の騒々しさに驚きながらも初めての一人暮らしに四苦八苦して。
今日は記念すべき入学式。
長々と話したが、つまりはこれは横田春が普通になるための最初の一歩なのだ。
ちなみに、俺が土御門家から提示された条件は二つ。
一つは指定した高校に進学すること。これは、教員の中に事情に通じるものがおり、もしもの場合の対応に当たると聞いて納得している。
二つ目は護衛の代わりに土御門家の次期頭首候補であるご令嬢をできる限りそばに置くこと。俺と同じ歳で、もともと高校進学は決まっていたとか。呪いの強力さ故に集めてしまう悪霊を退治させることで経験を積ませたいそうな。あと絶対に好意を持たない訓練を受けたお前が湧いてくる悪い虫を払えとも。これは土御門家の現頭首から直々の依頼である。ずいぶんと孫バカな爺がいるもんだ。
実は、そのご令嬢とやらをまだ見たことはない。ずいぶんと可愛がられているらしく、呪いの性質上対面厳禁だったのだ。通学時間になれば、玄関前で落ち合うことになっている。
「よし」
まだ真新しい制服に袖を通しネクタイを締める。ブレザーというのも新鮮だった。
「いってきます」
誰もいないリビングにそう声をかけたのは、少しの感傷と、これまでの一人ぼっちの自分との決別を込めて。
———チリン
「おはようございます」
玄関の扉を開けた先で俺を迎えたのは、涼しげな鈴の音と、可愛らしく響く挨拶と
美少女と呼んで差し支えない女の子が微笑みかけてくる光景だった。
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