ある日街の中、不平等主義者に出会った
鈴川 掌
起
平等とは、なんだろうかと考えたことはないだろうか?自分はある。
何一つの偏りなく、何一つの差別も無い、皆が同一であり、皆が等しい事それが平等と言う。なんと素晴らしき思想か、なんと美しき理念かと、人は皆一様にその思想に理念に憧れるだろう。
全てが平等で、全てが格差の無い世界、人は皆その様な世界に憧れてるだろう。それがどれ程つまらないモノだとしても、何も生まれない世界だとしても、それこそが皆が望んだ事なのだから。
しかしこの世界は残酷だ、そんな平等なんてモノは知らないと言わんばかりに、格差を生み、偏りがあり、優れた者のみが必要とされる世界。無能なんてモノは要らぬと捨て去られる世界に自分は居るのだと思う、だからこそこう思った、全てが平等で全てが偏りなく、全てが差別されない世界に僕は行ってみたいと、思うそれがどれ程思い描いていたモノと違っても構わないから。
真夏の夜の寝苦しさを前にしたときの様に眠れず目を覚ます、どれ程眠れていたのかはわからない、だが疲れは取れずにいる。肩こりが酷い、眩暈(めまい)がして暑くて寝苦しい筈の布団から出たくないという、駄々をこねる小学生の様な自分が居るのが分かる。
「働きたくねー」
そう愚痴を漏らす自分が居る、こんな愚痴を幾ら吐き捨てた所で、働く事を辞める事などできない事はわかっている、けれどだからと言ってこのまま人生を無為に過ごしたくないというのも本音だからどうするべきかを考える。今日は休んでいいんじゃないかと、自分の周りを飛ぶ悪魔が囁き、今日も働くべきだと逆にいる天使がそう呟く。
「まぁ休んだところで、お金が増える訳でもないしな」
布団から、墓場から出るゾンビの様に地面を這いつくばりながら、なんとか体を起こす。どれ程今日も働く決意をしたと言っても、やる気までは着いてこないから、やる気のない体に鞭(むち)を打ち、なんとか体を動かす。一つ一つの行動にやる気が伴わない、面倒くさいと、全てを投げ出したいという思いを心に浮かべながら、なんとか冷蔵庫の前に辿り着く。
「サンドイッチ…、サンドイッチ…」
サンドイッチというありきたりな食事を求めながら、冷蔵庫に手を伸ばす。ガサガサと乱雑に冷蔵庫の中から、お目当てのサンドイッチを取り出して袋を開けて、口に含むと同時に脳が糖分の補給をしたという事を認めたからか、ぼやけていた視界が良好になり、足取りが少し軽くなる。
その軽くなった足取りのままカーテンを開けると、朝の陽光が体に光を当て、先ほどまで薄暗かった、目に光が入る。
「眩しっ」
そう口にする事しかできない程の無い光を浴びて、思わず目が眩む。そしてその時その日光に対して少しの疑問が浮かぶが、その事はすぐに忘れ去ってしまう。何故かわからないが、この陽光をまだ見ていたいと心の奥底から思ったのだ、何故なのかは自分にもわからない。いつも通りにご飯を食べ、いつも通りにカーテンを開けた、特別な事はしていないが、何か特別な気がしたからこそ、この特別不思議な事は無い朝の日の出をずっと見ていたかったのだろう。
だがしかしいつまでもこのように朝の陽光を見続けられるのは、マンションの最上階に住んでいる様なVIPの様な存在しかできない事だ、自分の様な一般人にはそのような時間は許されない、しかし今日は少し早く起きたため、ゆっくり着替えられるだけの時間はあるのだ。
いつも通りの服装に着替えながら、もう一度改めて窓を見る、陽光が窓から見えるのは確かなのだが、何故かそれと同時に違和感も拭えない。
着替えを終えもう一度、窓の外を見るが特段、変な所は見つからない。これが小説の様に、いつもとは違う天井を見て、いつもとは違う世界に降り立ち、自分の都合よく進むような展開であればどれ程良かったことか、そんな事が現実に起きる筈も無いと、良い歳をしてそんな空想をしてしまう自分を自嘲しながらもう一度窓の外を見る、やはり実家の前のように印象に残らない程の、どこにでもありそうな景色を見て違和感など、余りの仕事の行きたくなさに見せた幻想だと思い部屋を後にした。
職場までは決して近いと言える距離ではない、だからこそこのように始業時刻よりもかなり早くに外に出て職場に向かう。
新入社員と言う訳でない、そこまで張り切り前もって職場に居ないといけない訳でもない、だけれどそれでもこのような時間に出なくてはいけない程には遠い、自転車や自動車を買えと職場の先輩にも言われていたけれど、自転車はまだしも、自動車を買ったとて置ける場所がそもそもないし、態々(わざわざ)仕事の為にそのような出費をしたくは無い、と言うのが本音だ。
だからと言ってその為に時間を無駄にしていると考えると、大概自分も時間を無駄にしているのだなという自覚もでるものだ思わず笑ってしまいそうになる。
「俺もかなり時間を無駄にしているんだな」
車は買わなくていい、自転車を買うだけでもかなり眠れる時間が増える筈なのに、会社を理由に自己投資をしない典型的な例だと自嘲する。
時間も足りない、お金も足りない、本当にこの世界は不平等だと思った矢先の出来事であった、自分は思わず目を疑う光景を目にする。
「なんだ?これ…」
おかしい、誰が見てもこの光景を見たらおかしいと思う筈だそれなのに、街ゆく人々はそれが当たり前の様に、街を闊歩(かっぽ)する。自分がおかしいのだろうか?それともこの世界がおかしくなったのだろうか?間違いなく自分であれば後者を選択するであろうが、周りの人々を見ておかしいのは自分だと自覚した。
ある日街の中、不平等主義者に出会った 鈴川 掌 @suzunone13
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