第3話 迷子になっちゃった!
「パパー! こっちだよぉ!」
ハァ、ハァ、ハァ
おれはいま、スーパー全速力で走っている。
「イヴくん、速いって……じっくり異世界を見物できないじゃん!」
それでもイヴくんを追いかけながら、あたりを観察してみた。
「建物が白と青しかない。綺麗な海が見える。まるでエーゲ海だな。ハァ、ハァ、車が宙を浮いて走ってる……おれはいったいどんな異世界にきたんだ? ハァ、ハァ」
ピコン♪
『 魔法都市アクロポリス アリフレッタ街 メインストリート 』
突然、例のAR画像が浮かぶ。
この辺りのマップっぽいな。
きっとおれが、調べたい!
と思ったとき、ARが発動するのだろう。
「にしても、すごく綺麗な街だな……もしかしてここって地球なのか?」
ピコン♪
『 惑星アトラス 地球との距離 約20光年 』
ひぇ~!
どうやらおれは、ちがう星に転生したようだ。
惑星アトラスか……地球とよく似た環境で、空は青いし空気もうまい。
太陽もあるし、くそデカいけど衛星もみえる。月ってことか。
でも、ぜんぜん違ってるのが……。
「あの浮かんでいる島はなんだ? 城がたってるけど、やべぇなあそこ……ダークな雰囲気がする」
ピコン♪
『 空島 魔王城 』
きたよ、ラスボスの住処だ。
「最終的にあそこにいくわけね、りょ~かい! ん?」
プッープッー!
あっぶねぇ!!
空島をみて走ってたら、車にひかれそうになった。
「おや?」
車からガスが排出されていない。
そういえば、リンカさんが魔導具と言っていたな。
どうやらこの異世界は、魔法がエネルギーのようだ。
つまり、電気やガソリンの代わりらしい。
なるほど……。
「惑星アトラスは、科学と魔法を融合させたマジカルテクノロジー文明なのか!」
ながいな。
マジテク文明と呼ぼう。
ん?
「ひったくりよー! バックかえしてー!」
なんと、宙に浮くバイクにのった悪者が、おじさんのバックを盗んでいた。
どこの世界にもいるんだな、悪いやつって……あ! イヴくんを見失ってしまった……。
「……う〜む、とりあえず捕まえよう!」
ダダダッ!
全速力で悪者を追いかける。
しかしあのバイク、めちゃ速ぇ!
「くそっ! にげられる……」
あきらめかけた、そのとき!
ドガァッ!
いきなり、イヴくんが悪者を飛び蹴りした。
「わるもの、けるーっ!」
「グハッ!!」
きょ、強烈な蹴りだ……。
おれはさっき、あれをくらってたのか!?
スタッ!
と、着地したイヴくんはピースサイン。
バイクは横転し、悪者はノックアウト。
おれは落ちているバックをひろって、おじさんにわたした。
「おじさん、これ、バック」
「ありがとうございます。でも、わたし、おばさんなんですけど……」
「あ、すいません」
ピー! ピー!
ん?
サイレンをならす数台の警備ロボがきた。
ポリスの英語表記。宙に浮いて、2本の触手がのびている。
すげぇ、機械だな……。
『ゴキョウリョク、カンシャシマス』
「いえいえ~」
警備ロボと握手するイヴくん。
めちゃ強いな! おれの息子ぉ!
ん?
プップッー!
なんだ、ここがバス停だったのか。
ちょうどバスが到着したようだ。
そのバスのよこには、『マジカルスクール』と英語で表記されてある。
あれ? ちょっとまて!
おれは英語が読めるし話せるぞ……。
ライトに転生したからだろう。
っていうか、惑星アトラスの言語って英語かよっ!
プシュー!
停車したバスの扉が開き、先生らしき女性が降りてきた。
黒髪ボブヘアのとても綺麗な女性だ。この異世界の人々の顔面レベルは高い。
アニメかよ……。
「イヴくーん! おはようございまーす!
「せんせーい! おっはモーニング!」
むにゅっ♡
わぁぁ! イヴくん、なんてことを!
「きゃあっ! お顔を先生のおっぱいにうずめちゃいけませんよ! そういうことをしていいのは、赤ちゃんとイケメンだけです!」
イケメンならいいんだ……。
「ごめんなさーい! ついまがさして! あはは」
おっさんみたいな言い訳っ!
「それならしかたないですね……許します」
許すんかいっ!
「ではイヴくんのお父様、いってきます!」
敬礼する女教師の名前は?
ピコン♪
『 エレナ 女性 23才 女教師 』
よし、覚えたぞ。
「エレナ先生。息子をよろしくお願いします」
「は、はい……ぽっ……あたしの名前を覚えてるんですね~! 朝から嬉しいなぁ、今日もがんばれそ~」
「パパー! ぼうけん、しなないでねー!」
「こらっ、イヴくん! 物騒なこと言っちゃダメですよ。死ぬ前に回復してねーと言ったほうがお利口さんです。よぅし! 今日は回復魔法の授業をみっちりやりましょう!」
ひぇー! とイヴくんが泣くと、バスの扉が閉まった。
「やれやれ……ぶっとんだキャラが多いな、この異世界は……にしてもイヴくんがうらやましい」
おれも、ああやって綺麗なお姉さんのおっぱいに飛び込みたい。
なんてバカなことを考えていると……。
「あれ? おれってどこにいけばいいだ?」
迷った……。
27歳にして、迷子になっちゃった!?
家に帰る道すらわからん。
スマホもないし、街路にある地図を見ても、ちんぷんかんぷんだ。
「まるで迷路だな……どうしよう?」
ピコン♪
『 本日の予定 会議 9:00~ 場所ギルド→ 』
お!
スケジュール管理までしてくれる。
っていうか、このピコン♪ はなんだ?
親切すぎるんだが……。
まぁとりあえず、このギルドって場所にいってみるか。
ギルド、それは異世界のアニメによく出てくるやつだ。
あれだ、あれ、冒険者のためのなんとか~ってやつ、忘れた。
ピコン♪
『 ギルド 冒険者の間で結成された各種の職業別組合 』
そう、これこれ、サンキュー。
「っていうか、最近アニメみれてなかったな~仕事が忙しくて……って、ただの言い訳か……」
27歳になって、つくづく思う。
体力が低下していると。
仕事と家の往復で、アニメをみる元気さえなくしていた。
そんなおれだけど、現在、転生して異世界にいる。
しかもイケメンで、結婚してて、可愛い子どもと綺麗な妻がいる。
これって、リア充ってやつじゃないか?
現実世界のおれって、あまりにも退屈で……彼女もいなくて……夢がなくて……。
「たぶん、これって死んだおれへの神様のプレゼントかもな……あはは」
天を仰いだ。
空は青く、すみわたり、神様降臨っ!
「な~んてことにはならないか……ふつうの異世界アニメなら神様が出てきてチートスキルをくれたりするもんだけど……おれにはそんなテンプレはないみたいだな……あれ? ちょっとまてよ……」
ってことは、前世の知識を活かして料理無双?
はたまた商人無双?
大金持ちになって、ハーレム!
って、おれはもう結婚してた……いかんいかん。
と思ってたけど……。
「めっちゃ店あるじゃん!」
ふつうに地球の文化があった。
イタリアン、中華料理、うどんに寿司、ラーメンもある。
おや?
パティという看板を見つけた。
あの店は、リンカさんがいってたケーキ屋さんだろう。
「めちゃ、甘い香りがする~ん? となりの店は服屋か……」
服屋には紳士服や婦人服も売っているようだが、防具屋のほうが多い。
もちろん武器屋もあるし、車屋もある。
「おお! あの車かっけぇ!」
いちおうおれは免許をもってる。
がんばって大学生のときに取ったもんね、へへっ。
運転してみたいなぁ……。
「っていうか……なんか地球より異世界のほうが文明が発達してそうだな……車、浮いちゃってるし、どうなってんだよこりゃ? 知識無双はきびしそう」
とりあえず、ギルドにいってみるか。
「って、ここじゃん……」
近っ!
ギルドは目と鼻の先にあった。
とても近代的なデザインの建物で、ビルでいうと3階建てぐらいか?
はいってみると、銀行のようなつくりで、カウンターには綺麗な女性たちが座っている。
「受付嬢ってやつか……みんな可愛いなぁ」
ガシッ!
え?
いきなり、知らない男に肩を抱かれた。
っていうか、ここは異世界だ。
知ってたら、逆に怖い。
「がははは! よくきたな~ライトー!」
みょうになれなれしいな。
調べておこう。
ピコン♪
『 ガイル 男性 42才 ギルド長 』
このおっさん、ギルド長なんだ。
「もうみんな会議室でまってるぜ!」
「みんな?」
「なにとぼけてんだ? ライトを追放したパーティのメンバーだよ。何やらリーダーから大事な話があるみたいだぜ」
「そ、そうなんだ……おれって追放されてたんだ……」
「どした? なんか今日へんだな?」
不思議そうな顔をするガイル。
あたりまえだ、おれは転生ほやほやだよっ!
「はやくこい! ライトー!」
ん?
見あげると、吹きぬけの2階に青年がいた。
双剣を装備して、いかにもオンラインゲームやってますって顔をしてる。
「あれが……リーダーか?」
なんか知らんが、えらそうだな。
っていうか……。
ライトって追放されたのか、いったい何をやらかしたんだろう。
「なんか嫌な予感がする……」
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