異世界ファミリー

ぬこまる

異世界 1日目

第1話 パパになっちゃった!


「おはようーっ!」


 朝、めざめると、小さな子どもがのっかてきた。

 やわらかい、人肌のぬくもり。

 忘れかけていた、抱きしめることの幸せ……。


「パパー! おきてー! あさだっち! あさだっち!」


 クリッとしたエメラルドの瞳。

 とても可愛い少年だが……。

 

「き、きみは……だれ?」

「パパー! ぼくのこと、わすれちゃったの?」

「え? おれが……パパ?」

「そだよー! ぼくのママとけっこんしたんだよぉ!」

「結婚……?」


 すると、美しい少女が部屋に入ってきた。

 とても綺麗だ。外国の人だろう。

 さらさらの金髪をハーフアップにまとめ、ドレス風のワンピにエプロンをかさねている。その横顔は凛としてて、彼女のことを例えるなら、まさに……。


 女神!


「こらぁー! イヴくん! はやく朝ごはん食べなさーい!」

「げっ、オークだー! にげろー!」

「だれがオークですかっ! まったく……」


 オーク?

 

 オークといったら異世界に出てくる鬼の魔物だったような?

 

「おはようございます。ライトさん」

「え? あ、おはようございます……って、なに? おれの名前はマコトだけど?」

「マコト? うふふ、なにをいってるんですか? まだ昨日のマジカルカクテルがぬけてないのかしら」

「マジカルカクテル? あの、ここはどこですか?」

「どこですかって……アリフレッタ街にあるライトさんの家ですけど」

「え? あの、失礼ですが……あなたは?」

「わたしはあなたの妻、リンカです! どうしたんですか? 目をさましてください!」

「うわっ!」


 いきなりフトンをはがされた。

 寒っ!

 って、服、着てないじゃん!

 いや、安心してください、はいてます。パンツは……。

 

「はやく着替えてくださいね。もう朝ごはん、できてますから」


 ぷりぷりしてるけど、うしろ姿も綺麗だな。

 部屋から出ていっちゃった。

 でも、リンカなんて女性を妻にもらった覚えはない。

 っていうかおれは27年間、彼女もできたことがない童貞。

 昨日は会社から帰って、飯食って、風呂はいって寝たはずだが……。

 

「あはは……これは夢だ……よっこいしょういち」


 立ちあがって、鏡を見てみる。

 

「え? おれじゃない……髪の毛サラサラ……お肌ツルツルだし……っていうかまって! めちゃイケメンじゃん!」


 ペタペタ、顔をさわったり、バキバキにわれた腹筋にふれてみた。


 感覚がある。

 

 あたたかい。

 

 これは……夢じゃない!

 

「やばぁぁ! なんだこれ? イケメンになってんだけどぉぉ! ってか、なぜだ? もしかして転生したのか? 寝ながら死んだのか? くそっ! 童貞のまま死んじまったぁぁぁ!」


 でもまぁいっか。

 どうやらライトっていう名前のイケメンに転生したらしい。

 妻も息子もいるみたいだし、幸せじゃん。

 とりえず、服を着よう。

 えっと、クローゼットを開けて……。

 え? なんだこれ? 

 中世ヨーロッパじゃん。

 冒険者っぽい服がいっぱいある。

 軽くて丈夫だな。

 靴もある。家の中で、はけってことか。

 なんとなく青が好きなので、青系の服と靴で装備を整え、鏡を見てみる。

 

「わぁぁ、身長たかっ! 180くらいあるぞ……モテるだろうな……ん?」


 クローゼットに剣がある。

 そんなに大きくはない。ダガーと呼ばれるものだろう。

  

「いちおう、持っていくか……」


 カチャ


 ダガーを腰に装備しておく。

 これで魔物でもたおすんだろう。


「ライトさーん! はやく食べちゃってくださーい!」


 リンカさんの声だ。

 

 はーい、と答え、となりの部屋にいく。


 わっ!


「ライトさん……ぎゅー♡」

「パパー! ぼくも、だっこだっこー!」


 リンカさんとイヴくんに抱きつかれた。

 

 あたたかい……。


 家族っていいな。


 ♪~


 おれの名前はホシノマコト。

 小学生のころ母親を病気で亡くして、父親とふたりで暮らしていた。

 いや、あれは、ふたりといえない。

 仕事をしなければならない父親は、めったに家にいなかったから、おれはずっとひとりぼっちだった。

 ごはんも、お風呂も、寝るときも……。


 ずっと、ずっと……ひとり……。


 それは、27才の大人になっても変わらなかった。

 仕事をやっているから遊ぶ時間もなく、友達とも疎遠になるし、彼女もいない。

 

 それでも……。


 ゆいいつ癒しだったのは、アニメだった。

 

 休日、ゴミ部屋を掃除して、服を洗濯して、布団を干して、買い物にいって、料理して、弁当を仕込んだら……。


 もう夜だ。


 で、寝る前に、好きなアニメをみる。


 これがおれの癒しであり、幸せな時間。


 だが、夜更かしはできない。


 明日は仕事があるから……。


 ああ、休みたい……。


 これが、おれの日常。

 

 あはは、なんだか仕事のせいばかりにしてるな……おれ。

 

 あれ?


 おれの父親もこんな気持ちだったのかな?


 子どものおれを養うために仕事するけど、こんなふうに家族を抱きしめる時間がなくなり、おれはどんどん成長して、大人になっていった……。


 ああ、そうか、やっとわかった。


 父さん……。


 父さんもつらかったんだね……。


『いってきます……』


 そういって、仕事にいく父親の背中を思い出す。

 おれは、いってらっしゃいと、うまくいえなかったな……。


 しゅん、と泣きそうな気持ちになってしまう。


 だけど、どうして?


 なぜおれは異世界でパパになっているのだろう……。


 その謎が、頭をかすめていたのだった。

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