第39話 招かれざる生徒

「みんな見て、五之治くんがぶつかったこれ……鳥居だよ」


 痛てて……。


 見るからに大きな鳥居が目の前に立ちはだかる。その高さはおよそ15メートル程で3階建ての建物と同じくらいの高さ。




 ……ありえない。


 この街にこんな大きな鳥居なんてない。

 あるとすればもっと目立つはずなんだ。

 

 ……つまりここは大都会東京とは隔離された別の世界。そう考えるのが妥当だろう。




「誰が…何の目的でこんな大きな鳥居を建てたんだろう……」

「その割には境内けいだいは意外と狭いのね……」


 水鳥と番匠が俺を置き去りに中へと侵入していく。

 俺も後をついていくように立ち上がった。


 見た感じ鳥居以外はどこにでもある普通の境内だ。地面には砂利が引いてあり石畳をまっすぐ進んだ先に見えるのがおそらく本殿であろう。


 俺たちは何食わぬ顔で石畳の上を歩いて本殿へと足を運んだ。


 きっとあの中に花火や番匠が噂をしていた占い師がいる。

 なんとなくだがそんな【気】を感じる。




「あれが本殿……ですね」


 少し離れた場所から花火がぽつりと一言。

 スマホを片手に周囲を警戒している様子。


 鳥居の見た目とは裏腹にとても小さな平家ほどの本殿……。その両横には狛犬の銅像が2体並べられている。見た感じどこにでもありそうな小さな神社。


 特に変わったところは無い。


 あるとすれば……。



「さっきからそこで見てるのは誰だ?」


 俺は感じていた視線の先に向かって大きめの声を発した。


 すると倉庫のような小屋の屋根から軽快なステップで俺たちの元へと降りてくる一人の巫女みこが現れた。巫女は俺たちを一瞥してからほうきを片手に口を開く。


「君すっごいねーウチの【気】に気付くなんて……いったい何者かな〜?」


 箒を武器のようにクルクルと回し上目遣いで俺を見つめる目付きと独特の口調。



「まずは自分から名乗れよ。この世界じゃ常識だぜ?」


 白髪のショートカットでもっちりとした赤みのある肌、まるで狐のような細い目付きで俺をみつめる謎のオンナ。


「嫌だよぉ〜だ。君たちが来ることはわかってたよー。ご主人はなんでも知ってるもんね。ささ、積もる話もあるだろうしついてきなよ。とっても狭い本殿でご主人が会いたがってるよぉ〜」


 まるで俺たちを罠にでも誘っているかのような子供っぽい口ぶりの巫女は本殿に向かい歩き出した。



「変な人ね……」

「ねぇ、なんか怖くない?」


 身体能力が高そうな謎の巫女に警戒する水鳥と番匠……。

 ファンタジー感が出てきたからなのか多少なり興奮して表情が柔らかくなっている様子の花火を横目に見た。



「みんな、行こう」


 危険に巻き込むかもしれない、それは悪いとは思う……。

 しかし、例えこれが罠であってもいい。ようやく掴みかけた元の世界へ帰る手がかり、ここで逃すわけにはいかないだろ。それに渦巻を助けられる方法がわかるかもしれない。



 俺の言葉に背中を押された水鳥と番匠も一緒に本殿に来てくれることになり巫女の跡をついていった。


 とても立派とは言えない見た目の小さな本殿。やしろとまでは言わないが中の広さはおそらく4畳ほどだろう。

 

 本殿の目の前に着くと巫女はピタリと歩を止めた。


「君たちはここまで。ご主人は顔を見せれないからお話をするだけ。だからこのままでこの場所で話をしてもらうよ……」


 

 ご主人と言う人物は一体どんな人なんだろう。おそらくこの疑問はここにいる巫女以外のみんなが思っている。

 

 そして固唾を飲んでその時を待った……。




「ちょっと〜返事は!?」


「「はい!!」」



 4人の声がハモった……。

 この巫女、ふざけてるのか……狐みたいな目つきでニヤニヤしやがって。


 外から本殿の中の様子は見えず、壁の中央あたりに小さく薄暗い穴が空いている。その穴から漂ってくる只ならぬ空気にもう一度、固唾を飲んだ。


 胸を打つような低い声が本殿の中から耳元を揺らす。



「……招かれざる客とは……2年ぶりだね」

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