第38話 迷い路地再び

 

 迎えた放課後。 


「おっす、待ったか番匠」


「あ、五之治くんに水鳥さんも。私も今来たところだよ」


 番匠が校門の前でカバンの持ち手を両手で持って待っていた。

 

 こう見ると番匠も水鳥に負けず劣らずの美少女だ。ショートボブで肌が綺麗で少し大人しめの性格だがそれが逆に彼女の魅力を引き立てているのだろう。


 俺の横にいる水鳥は学年一位の成績でかつ精霊のようなたたずまい。一つ一つの動作が貴賓きひんに溢れている。

 キラりと艶のあるストレートの髪に整った顔立ち、そして全てを吸い込むようなサファイアのような青い瞳。


「あ、先輩っ! てかみなさんも既にお揃いですか」


 少し遅れて来たのは花火。


 転入初日に俺を尾行していた少女。見た目は小柄で華奢、癖毛のある明るい髪色で小動物のような可愛らしいリボンを身に付けている。


 性格は明るく活発で俺に対しての当たりが少し強めのヒステリックガール。特技は俺を揶揄からかうこと。


「確か最後に来た奴が全員の晩飯をご馳走するって約束だよな?」


 と花火に何か言われる前に先手を打った。


 先手必勝しか勝たん。



「何言ってるの五之治くん、頭でもぶつけたのかしら?」


 水鳥の言葉にクスクスと笑う番匠。


 味方がいない……完全に裏切られた。


「どうせ私に何か言われる前に先手を打とうと考えてたんじゃないんですかね? ざまぁーですね、せーんぱいっ」


 笑顔満開の反撃に俺の心は折れた。

 



 ……帰りたい。




「じゃあ行きますか!」


 花火が仕切りだしてみんなそれについて行くかのように歩きだした。


 今思えばあの場所は花火と俺しか知らない。

 

 番匠はその噂を聞いた程度で知っているとは思えない。それに水鳥は噂すら聞いてないし聞いていたとしても信じない、そんな器の持ち主だ。


 

 正直不安だが……。


 またこの前のように道に迷わされるかもしれない。しかし今回は仲間がいる、それも4人パーティだ。


 これは経験則だが4人パーティに出来ない事はない。不可能を可能に出来るのが4人だ。


 最近覚えた諺でこんな言葉がある。


「4人集まれば文殊もんじゅの知恵」


 出来ない事なんてない。必ず渦巻の呪いを解いてやる。そしてまたいつも通りの学校生活を実現させるんだ。


「3人よ……」


「へ?」


 素っ頓狂な俺の返事に水鳥が畳み掛ける。


「だから3人寄れば文殊の知恵よ……あなた本当に大丈夫? 中間テスト赤点だと進級出来ないのよ」


 水鳥に蔑まれ、俺の隣でケラケラと仲良さそうに笑う番匠と花火。


 中間テストか……。


 このまま勉強に追われる日々が始まるくらいなら今すぐにでもこの肉体から離れたい。そこまでしてでも勉強をしたくないという感情が幾度となく現れては消えている。


「もうすぐですよ」


 スマホを片手に俺達を目的地へと案内してくれているナビゲーションガールこと引持花火。


 だがおそらくこのまま進めば以前の二の舞になるだろう。花火もそれを承知していると思うのだが……。


「あれ? ここってさっきも通ったような」


「確かに……さっきも通ったと思うわ」



 言わんこっちゃない。

 案の定、俺たちはまた路地に迷いこんだ。


 あの時、俺たちの視覚に何かしらの力が働いていた。今回も同じであれば何のことは無い。ただひたすら目的に直進すればいいのだから。


「花火、この前道に迷った時のこと覚えてるか?」


「えっ? あぁ! そういうことですか!」


 バカなのか……。

 あれだけ体調を崩し疲れ果ててベンチで寝込んでいた時のことをもう忘れたのか。



 ……だが問題はそこじゃない。


 来た道に追い返されないかだ。

 以前来た時、なんとか見破ったが来た道に戻されてしまった。おそらく今回も戻されるのかもしれない。


 目的地に辿り着かせないために。



 俺たちは花火を先頭にし後ろをついて行った。これだけ人数が多いと何が起きるかわからない。


 そう考えていた俺は最後尾に陣取っている。


 と言えば聞こえはいいが実はこれは作戦である。以前俺は目をつむり迷いの路地から脱出することができた。

 しかしその代償として電信柱に頭を強くぶつけたのだ。


 同じ過ちは繰り返さない。

 人は失敗から学ぶ生き物なのだ。



 花火は目を閉じながら頭の触覚リボンを頼りに少しずつ前進している。

 その後ろを不思議そうに歩く水鳥と番匠。


「ありえないわ……引持さんが……」

「もっち、ぶつかってるよ……?」


 それから数分ほど花火のペースで歩いた。


「どう言う現象なのかしら光の乱反射……? それともホログラムかしら?」


「水鳥さん博識だね。私は分析する余裕がないくらい驚いてるよ……」



 2回目の体験で少しわかった気がする。


 ……おそらくこれは結界。


 必ず当たると噂の占い師の存在。

 俺の中の信憑性が高まってきた……。


 元の世界に戻る方法も、もしかすれば知ってい……。


「……っった!!」


 何かにぶつかった衝撃で倒れた。

 硬くてデカい石のようなもの……。


 ……痛い。



「ごっ、ごのじ…くん……っ」


 心配するかのように俺を嘲笑っている番匠。

 その横でケラケラと腹を抱えている花火。

 呆れた顔で倒れた俺を見下す水鳥。


 なんてオンナ達だ。



 ……帰りたい。



「犬も歩けば棒に当たる……再びですね」

 

 いやらしい目つきで花火に言われた。


 それより先頭の花火はどうしてぶつからずに俺がぶつかったんだ。相場が違うじゃないか。運命とは時に残酷だ。あれだけみんなの事を心配し後ろに陣取っていた俺が天罰を喰らうとは。



『人は失敗から学ぶ』とかなんとか言って悪い事を考えていたのは俺だった。

 

 ……神様は本当にいるのかもしれない。

 

 



「みんな見て、五之治くんがぶつかったこれ……鳥居だよ」

 

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