第9話 花火との放課後#2
「先輩、今の私たちのことを世間一般になんて言うか知ってますか?」
「流石にわかる。……迷子だろ」
俺たちは完全に自分達の現在地がわからなくなっていた。
だが疑問に思うことは幾つかある。
GPSが起動してなくても同じ方向に進み続ければ必ずどこかわかりやすい場所に出るはずなんだ。だが来た道を戻っても景色が変わらない……。
戻ることを諦めてからは日没の方向に向けて歩き続けていた。
迷っていたとしてもどこか目ぼしい場所に出られるはずなんだ。なのに俺と花火はこの路地に入ってから出ていない。
正確に言えば出られていないが正しいのかもしれない……。
「なぁ花火、なんでさっきからキョロキョロしてるんだ? 初日の俺みたいで見るからに怪しいぞ?」
「えーっと……そろそろかと思ってるんですけど」
「何がだよ」
「ドッキリの告知ですよ。そろそろドッキリの看板を持った仕掛け人が出てきてくれないと私たち的にも番組的にも危ないじゃないですか」
「俺たちはドッキリのターゲットかよ!」
「はぁ……仕方ありません先輩、私警察呼びます。このままここで死ぬよりは警察の厄介になったほうがマシですよ」
「んー。警察に連絡してもいいんだけど、そもそもここがどこだかわかるのか?」
「あっ……」
そんなことだろうと思った。
電話で誰かを呼んでも俺たちの居場所はわからない。
なにせ俺たちにもわからないのだから。
「しかもなんかこの路地、さっきから誰一人と人が通りませんよね。なんだか気味が悪いです。ちょっと気持ち悪くなってきました」
電柱に手をついたまま花火が俯いている。
花火の言う通り俺たちはこの路地に入ってから誰一人として出会っていない。
ここは日本で最も人口の多い町、東京だ。
それも夕方のこの時間は帰宅ラッシュと重なるから人通りは必然的に多くなるはずなんだ。
「大丈夫か?」
「……ちょっと、休んでもいいですか?」
「暗くなる前に帰りたいところだけど仕方ない。ベンチで少し休むか」
路地の中にあった小さな公園のベンチに腰をかけて休むことにした。
路地もいつの間にか暗くなり、ポツポツと外灯が点き始めていた。
花火は頭を抑えて少しうなされているようだったのでベンチに横にして寝かせるように休ませることにした。
「ふぅ……」
この状況は身に覚えがある。
それは俺がこの世界に転生する前の記憶。
だからあまり考えないようにしていた。なぜならこの世界はあの世界とは仕組みが根底から違う。
魔物がいなければ魔王もいない。
スキルもなければマナもない。
だから考えるだけ、思い出すだけ時間の無駄だ。そういうふうに考えていた。
だが今はそんな悠長なことを言っている場合ではない。
思い出そうあの頃記憶を……。
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