第2話 サラリーマンの正体

 それから、1週間後くらいだった。


「この間のサラリーマンにまた話しかけられた」と、中学生が言う。

「えぇ!何で?」

「連絡来ないねって」

「それでまた喋ってたのか・・・」

「いや・・・でも、怪しい人じゃないよ。FacebookのURL教えてくれた。ほら、〇〇高校卒って書いてる」

 中学生はスマホの画面を見せてきた。

「えぇ。変だってそいつ」

「でも、奥さんと子どももいるよ」


 よくよく見てみたら、まだ30代で大企業に勤めていて、家は文京区だった。

 悔しいほどのイケメン。勤務先は泣く子も黙る大企業だ。

 俺は完敗だった。

「こんなイケメンだったら君がセックスしてみたいのもわかるよ」

「そんなことないよ。僕は江田さんの方がタイプだよ」

「いいよ。変な気を遣わなくて・・・でも、奥さんと子どもいても気にならない?」

「嫌だ」

「じゃあ、連絡取るのやめなよ」

「でも、大学は〇〇だし・・・」

「俺と同じ大学じゃねぇか!くそ・・・!」


 俺は悔しかった。後輩に負けたことに。

 俺はそいつに復讐してやろうと思った。お前の性癖を世間に晒してやる!


 俺は大学のコネと、勤務先の伝手の両方を使って、男を特定した。名前はA氏。お前の家庭を滅茶苦茶にしてやると俺は決めていた。幸せそうな仮面の下で、男子中学生を手玉に取っている変態野郎だ。同情はしない。

 

 俺は早速、そいつを尾行することにした。中学生によると、彼は、学校が終わる頃に駅にいるという。俺は半休を取って男の家の前で張り込んだ。


 家は人から住所を教えてもらって、すぐにわかった。3LDKの一戸建てだった。玄関には子乗せ自転車が置いてあった。子供は2歳と5歳の2人のようだ。痛々しい。今は在宅勤務らしいが、仕事の合間に駅に行って中学生をナンパしてるようだ・・・確かに、そいつの家から近いのだけど、奇妙だった。


 ・・・なぜ?そんなに中学生にこだわるのかが。


 もし、中学生と付き合いたかったら、サマーキャンプに行くとか、指導者になるとか、塾でバイトするか、自分の息子が中学生になるまで待てばいいんだ。


 あ、そうか既婚者で子供がいるから、俺みたいに自由になる時間がないんだ・・・。俺は納得した。中学生と言えば、反抗期、面倒くさい、邪魔という三拍子そろった、俺にとって一番手に負えない世代だ。そうでない中学生もいるだろうが、俺に中学生の良さはわからない。

 

 あんなイケメンがなぜ男子中学生なんかを・・・。しかも、ジャニーズJr.とかにいそうなイケメンでもなく、普通の子を・・・。


 しかし、1日目であっけなくやつは出て来た。性犯罪者というのは毎日でも、獲物を求めて探しに行くものなんだ。黙っていると、中学生男子がチラチラ目の前に浮かんで来て、じっとしていられないんだろう。


 俺は駅まで跡をつけた。全然、気が付いている気配はない。


 俺はPASMOで地下鉄の改札に入った。すると男は、ホームに降りてベンチに座って携帯をいじっていた。上り下りの両方のホームに電車が入って来たが、乗ろうとしない。奇妙だった。何してるんだろう・・・。男子中学生を物色しているんだろうか。

 すると、いきなりすくっと立ち上がると、〇〇方面行きの電車に乗った。俺も慌てて同じ車両に乗る。あいつが通っている〇〇中学の方角ではなかった。

 

 すると、すぐ次の駅で降りた。そして、女子高生が集団で降りた後にぴったりと張り付いていた。そして、そのままエスカレーターに乗って上に上がって行く。そして、改札に散らばっていく高校生を見送ると、自身は改札を出ないで、トイレに入って行った。俺は外で待っていた。すると、トイレから出て来たと思ったら、やつはまた電車に乗り込んだ。同じ〇〇方面行だ。


 そして、またかわいい女子高生をチラチラ目で追っていて、その子が電車を降りると後ろからついて行ったんだ・・・。そして、エスカレーターで真後ろに立つ。


 もう、わかったと思うけど、彼は多分盗撮をやってるんだ・・・。

 同じことを5回くらい繰り返していた。


 俺は警察に言おうか迷った。盗撮っていうのは、被害者がいるのか、いないのかがよくわからない犯罪だ。俺の想像だけど、今の若い子って、スカートの下にスパッツを履いてるんじゃないだろうか。俺の姪は履いていた。だから、スカートの中を見られてもそんなに困らないんじゃないかと思うんだ。


 しかし、結局、俺は警察に行った。俺が彼の跡をつけていた理由も伝えた。

「男子中学生をナンパするような男が、女子高生の盗撮をするっていうのがよくわからないんですけど、盗撮より、子どもをナンパしてどっかに連れ込んだりしてたら、そっちの方がよっぽど悪質なんで・・・。そういう性犯罪者を野放しにできないと思いまして」

 警察の人はちょっと引いていたと思う。

 俺は男のFacebookのURLや自宅の住所、勤務先などを伝えた。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る