冒険者稼業は大変です。

語部 倫太郎

第1話 冒険者

「あれ、ここであってるよね?」


返事が貰えるわけでもない独り言を呟く。青年の見た目は淡い青色の瞳に黒髪が肩に少し掛かる中性的で綺麗な顔、少しボロのマントを羽織っており腰に刀をさしている。その青年は地図を見ながらここが冒険者ギルドか確認をしていた。

田舎出身である青年は冒険者ギルドとはもっと騒がしく、行ったらすぐにわかる所だと田舎で聞いていたので、この静かな場所が本当にギルドなのか疑ってしまった。


「まぁ、ギルドの看板もあるし中に入ればわかるかな」


青年が中に入ると木の椅子と机が並び、横には暖炉と奥の方には受付がある。ギルドなんだろうが受付嬢も居なければ冒険者もいない。休みなのだろうか?なんて考えが一瞬過ぎるがそんなことは無いだろうと頭をふった。

ひとまず受付の人が居ないか奥の方に呼びかけてみた。

すると奥から気怠そうな声をしながら30代中頃の男性が頭を掻きながら出てきた。


「なんでこんな時間に人が来るんだよ……かったりぃなぁ」

「あの、ここは冒険者ギルドで、あなたは受付の方ですか?僕冒険者になる為に来ました!登録させて下さい!!」


怠そうな男の態度を無視して青年は目を輝かせながら男に言った。すると


「あ?お前さん冒険者になる為に試験があるのを知らないのか?今日はその試験日で受付嬢も新人を見たがる冒険者もみんな試験会場行ってるぞ」

「え!?冒険者ギルドに行けば登録して終わりって聞いてたんで知りませんでした…」

「それが半年程前に法が変わってな、新人がいきがって無茶やらかして死ぬ事が多いから、上級冒険者達が国に掛け合って法を変えちまったんだとよ。お前さんどんだけ田舎の方から来たんだよ?」


そんな情報を聞いていなかったらしい青年の顔は青くなっていて、男の質問に返答が出来ない程慌てて居る。青年ははっとした顔になり


「試験会場ってどこでやってるんですか!教えてください!!お願いします!!!」

「良いけど走って間に合うか?ここから北の通りをまっすぐ走って行くと門があるからそこで説明会が今んとこやってるだろうが嬢ちゃんの足で間に合うか?」

「北の通りをまっすぐですね!ありがとうございます!!」


青年は急いで扉に向かい玄関を勢いよく開け出てい

く間際に少し振り返り


「あと、僕はーーー」




北の通りを全速力で駆け、時折通行人にぶつかりそうになりながらも何とか北の門に辿り着いた。

制服を着た女性が斧や剣、弓などを携えた人達に説明をしている最中のようでどうやら間に合ったらしい。後の方で息を切らしながら話を聞いていたら


「それでは皆さん説明は以上です。何か分からない事があればいつでも聞きに来てください。それから門を出る際に地図の受け取りを忘れないように。試験開始は20分後とします。皆様のご活躍を祈っております」


と、言われて話はすぐに終わった。どうやら試験開始には間に合いはしたが肝心の試験内容を聞けなかったらしいので受付嬢の所に行って説明を聞くかと思ったら少し前の方にいた女性に声を掛けられた


「この辺じゃ見ない顔ね、あなたみたいなのが冒険者になれると本気で思ってるの?」


金色の短髪に紅色の瞳、服も鎧などは付けておらず袖の短い服に短パンで剣を持った人に絡まれた。

面倒臭いなと思うが一応同じ冒険者志願者なので挨拶をしておこうかな


「こんにちは!僕はシグ・マグナって言います。あなたも僕と同じくらいの歳に見えますが?」

「なめないでよ!私はルードル公爵の娘よ。剣術なら師匠に習ったし魔法だって使えるんだから」


などと自慢されたがルードル公爵って誰だろう?貴族の娘がなんで冒険者になろうとか思ったのだ?

そもそもなぜそんなに突っかかって来るのだろか?


「あの、所で何か用ですか?」

「ふん、数少ない女性の方がいたからパーティーでも組んであげようかと思ったのよ。ルードル公爵の娘である私に誘って貰って嬉しいでしょ?光栄に思いなさい」


どうしよう、すごく面倒くさい。関わりたくないなぁとか考えていたら顔に出ていたのか少しムスッとしながら


「私からの誘いは嫌だった?それなら他の方をお誘いしますのでどうぞご勝手に」

「あ、はい。わかりました」


内心喜びながら受付嬢の元に行き、絡まれたせいで時間が無いので簡単に説明を聞いた。要約すると


・近隣のダンジョンの最下層の冒険者プレート(無記名)を持ち帰る事

・モンスターが居るので倒して体の一部を持ち帰る(クエストなどではモンスターごとに決まって居るが今回の試験ではどこでも良い)

・制限時間は午後3時〜午前0時までとする

・出発までにはダンジョンまでの地図を貰うこと


だそうで、冒険者の心得やらなんやらは聞き流してしまった。

これから始まる試験はまだかまだかと期待して、胸を踊らせていた。

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