城《カゴ》の中のお姫様
白鷺緋翠
プロローグ
穏やかな春の日。国中が祝福で包まれるその日は訪れた。
ルキウス王国。世界でもトップクラスの領土と人口を抱える巨大国。そんな国を代々治める見目麗しい王族は国民の憧れであり、敬愛される者たちであった。
そしてそんな春の日、ルキウス王国待望の第一王女である女児が王室に誕生した。
国王の名をウィレウス・ルキウスという。彼は若くして即位した、歴代の王の中でも目立って優秀な王だった。周りにたくさんあったスラム街は一つのみと激減。成人した人間が必ず何か職を持ち、金に困ることのない法律の制定。独裁主義を掲げる貴族の追放。他にも街の整備や国の隅から隅までにその支配が行き届くような管理。
民は彼の姿を見てこの国に安心感を抱き、この国にいれば老後まで何不自由なく暮らせると評判が他国にまで及ぶほど。自分の贅沢など二の次三の次、と考える理想の王だった。
彼には二人の妻がいる。正妃はアーネス侯爵家令嬢のレジェッタ・アーネス。側妃はチェイサー伯爵家令嬢のルミーテ・チェイサー。
レジェッタとは恋愛結婚であり、周りもその結婚に賛同していたがレジェッタは子宝に恵まれにくかった。貴族内で跡継ぎ問題が出るとたちまちそれはだんだんと大きくなっていく。そこで、ウィレウスは事業に失敗して赤字続きだったチェイサー家を支援をする代わりとして一人娘であるルミーテを側妃にもらうことにした。
ルミーテはすぐに男児を出産。それに続くようにしてレジェッタのお腹に子が宿るようになった。
王室には現在六人の子どもがいる。長男と四男と五男はルミーテ。次男と三男と長女はレジェッタ。母は違うが、ウィレウスの「家族皆で仲良く過ごすこと」を全員が守り、完全に血が繋がってなくとも仲睦まじく過ごしている。
たった一人の王女、セレーア・ルキウスは正義感が強くて優しい、皆から愛される人である。知らないことを知るのが好きで勉強を熱心に取り組んでいた。ふと見せる大人びた表情と年相応に見せる無邪気な笑顔に、心を射抜かれない人間はいないだろう。
子どもからだけでなく大人からも憧れられるような、王女という名に相応しい人物。
そんな彼女には誰にも言えない大きな秘密があった。
それは、転生者であること。
セレーアには前世の記憶というものがあった。それは物心ついても成長しても消えることはなく。
自分が日本で生きていた
桜木奈緒は一般家庭に産まれた普通の人間。東京の大学に合格して上京。一人暮らしを始めた二日後、買い物に出かけていた奈緒は交通事故に巻き込まれて死んだ。あのとき、東京ってやっぱ怖いなんて呑気に思ったどうでも良いことまで鮮明に思い出す。
元の世界に帰りたいかと言われたら別にそうでもない。死んだのだったらまた別の人生を、次は天寿を全うできるように生きれば良いだけの話だ。
転移したのだったら帰りたいと思ったのかもしれないが、あちらの世界では自分は死んだことになっている。ここではセレーアという桜木奈緒とは全くの別人であるので、元の世界に帰れるかどうかなどに関しては何も考えないことにした。
ルキウス王国から見て東に位置する隣国アルキューテ王国とは元より敵対している国。国境の位置にあるウェノプス山脈という高い山々が連なるその場所が高い壁のように聳え立ち、過去の戦争でその両国の麓には隔てる門が造られた。
そのウェノプス山脈には両国に伝わる古い伝説がある。
「決してその山を越えてはならない。地底に住む竜が今か今かと人間を待ち、見つけては食ってしまう」
竜が恐れられているわけは本によってバラバラなので真相は謎だ。国を滅ぼしただとか、人を食うだとか、神だとか。色々だ。
その伝説はどのおとぎ話にも歴史書にも載っており、誰もその山の頂上には近づいていない。そこには大きな地割れがあるという噂だが、誰も真実を知らない。
ウェノプス山脈は険しく、美しい場所だという。
だが、美しい場所にこそ危うい何かがひっそりと息を潜めているものだ。
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