この地に生きる稀人たち
石野二番
稀人ケース第六号
「参ったな」
僕は目の前に座っている『彼』が話を終えるのを待ってからそう呟いた。
「何を参ることがある。私はこの人類を守るためにここにいる。その任務を全うしたいだけなのだが」
「えーと、その『守る』っていうのは……」
「先ほど述べたとおりだ。この星を悪用せんと狙っている異星人からあなたたちを守る。それが私の任務だ」
これは骨が折れそうだ。
「だいたい、あなたたちはこれだけの文明を築いておきながら隙だらけ過ぎるのだ。だが、そんなあなたたちをそのままに守ろう。そう私は決めたのだ」
「ちなみに、君がこの星に来る前のことは覚えてるかな?」
「私が死んだ時のことだろう?そんなもの、忘れるはずがない。こことよく似た星で私はある異星人と相討ちになったのだ」
「その異星人っていうのは、こんな姿?」
そう言って僕がスマホに表示させた画像を見せると、彼は慌て始めた。
「何故こいつのことをあなたが知っているのだ!?まさか、この星にも既に来ているのか!?」
「やっぱりか。とにかく、これで確定だ」
時間こそかかったが、ここまで確認できれば十分だろう。
「現時点より君の事を我が国における稀人ケース第六号と認定します」
そう宣言した僕を彼は口をぽかんと開けて見ていた。状況が飲み込めないのだろう。いや、おそらく最初から彼は正しく状況を理解してはいなかったはずだ。
「落ち着いて聞いてください。君はこの僕らの世界で誰かが作り出したフィクションの存在なんです」
「お、おい。あなたは何を言って……」
「僕らは君のような存在を『稀人』と呼称しています」
「そんな、私が、作り物……?」
彼は明らかに動揺している。無理もない反応だ。
「で、では、私が今まで守ってきたあの星の人々は、ともに戦ってきた同志たちは……」
「その人たちも作られた存在です。君の物語は、ここに描かれている通りです」
僕はスマホを再び操作して、とあるマンガを表示させ、彼に渡した。スマホを受け取った彼は食い入るように画面を見つめている。
「確かに、これは私だ。私たちだ」
「君が守るべきもののために生命を削る思いで戦う姿を、この国の子どもなら必ず一度は目にします。そして正義とは何か、勇気とは何かを学びます」
僕の言葉に、彼はゆっくりと手元のスマホから顔を上げる。
「では、私のしてきたことは、」
「はい。無意味などでは決してないのです。あなたが見せてきた正義の姿は、多くの人の心に刻まれています」
僕は彼の肩に手を置いて、
「僕もその一人です。君は僕にとって紛れもなくヒーローだ。こうして会えて話ができるのが光栄なぐらいですよ」
と心情を口にした。
「でも、この世界では君は別の生き方もできる。急には難しいかもしれませんが、ゆっくりと考えていきましょう。君の今後の事を」
そこまで伝えたところで、部屋のドアが開き、部下が二人入ってきた。
「あとのことはこの二人にお願いしてあります。何か必要なものなどあれば遠慮なく言ってください」
「あ、あぁ。ありがとう……」
「では、こちらへ」
部下に先導されて彼は部屋を出ていった。ドアが完全に閉じるのを確認してから僕は大きく息を吐き出した。
「つ、疲れたぁ~。稀人って、あんなのも現れるんだなぁ」
ここではない、別の世界の住人が突如として現れる現象がある。
そうして現れた者たちは『稀人』と呼ばれている。
稀人には一定の法則があることが分かってきている。一つ目はフィクションの中の存在であること。二つ目は人々に愛され、敵意を持っていないこと。そして三つ目は彼らの世界で死が確定していることだ。
「確か、最終回で彼は敵と相討ちになるんだったな。それで後を継ぐ者が新たに現れて新シリーズ突入だっけ」
そこまで記憶をたどってから続きをスマホで検索しようとして気付いた。
「あ、彼、僕のスマホ持ったままだったな」
そして再びため息を吐いてぽつりと呟いた。
「『正義の味方』か。確かに子どもたちは皆好きだもんなぁ」
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