13

 震える程力の入った手にはひのきの棒が握られている。

 ぐらぐらと揺れる瞳を瞬きさせて、息のうまく通らない喉に力を込めてあげた王の顔は真っ直ぐと魔王に向けられていた。

「そんなたわごとで放棄するようなら、初めから王などやっておらぬ」

 はぁ、と魔王は背もたれに体を預けた。

「ちょっと自信あったんだけどな。やっぱお兄ちゃんはそうだよね」

 わざとらしく落胆したような顔をしながら、その目は少し寂し気に伏せられる。

「民を、皆を守りたい」

 王はそうはっきりと言った。知ってるよ、と言う魔王に、王は片手を差し伸べた。

「だから一緒に帰ろう」

「え」

 魔王が顔をあげる。

「合わなくたって、家族なんだから」

 にこりと真っ直ぐに王は笑う。


「あー、王様。その、言いそびれてたことがあって」


 ひのきの棒の声に、王は手元に視線を落とす。

「魔王って生きてるだけで魔物をどんどん強くするんだよね、どのみち魔物が暴走していつかは、人類滅ぶわけで……だから、魔王、殺すしかない」

 歯切れ悪く、けれどもしっかりとひのきの棒が言う。風王がひのきの棒を見た。

「あなたまだそれを言って無かったのですか」

「だ、だってさ……今までは倒すモチベ上がるって思ってたけど、今回は……なんか、言えなくて」

「らしくもない……」

 風王が視線をあげれば、王は無表情だった。

「王様、ごめん」

「そっか、それなら……仕方ないか」

 目を細め、王は視線を持ち上げる。ゆるやかに上げられた口元が、きゅっと引き締められてひのきの棒を強く握った。

 そのひのきの棒を、魔王に突き付ける。


「倒させてもらおうぞ、魔王よ」

 にたり、と魔王の口角があがる。






 崩れた城壁の上に手を突き出して立っていたのは軽鎧を着た女だった。

「もう、女の子いじめちゃダメじゃないですか。土王さん」

 ひょいっと降りて魔女と石壁ゴーレム、土王へと歩み寄る。

「……火王、寝返りか」

 土王の発言に魔女はえっと声をあげてその女、火王を見た。

「いやぁ、初めは単に時期魔王様が気になったからついてっただけなんですよ?」

 火王は若干苦笑いしてみせる。

「でも、なんか同情? しちゃいまして、それでなぁなぁこの国にいたらスカウトされたって言うか……まぁ、ぶっちゃけ寝返りましたね」

「お前……」

 地面から生やした敵の矛先を変えようとする土王に、タンマ、と火王は手で制す。

「もう終わりっぽいですよ」

 視線を、遠くへ向ける。





 交わう魔王の剣とひのきの棒。縦横無尽に飛んでくる魔法をかわし、王は魔王の上に跳んだ。あ、と魔王が言う。

 ひのきの棒が魔王の胸を貫いた。

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