総務、王様を追う
05
柱の陰に隠れるそれに、王と魔女の視線は向いている。
「ほらほら、挨拶しちゃおう」
魔女がぽん、と肩を叩くとひゃっと小さな声をあげて跳ね上がり、柱の横からそーっと顔を出した。
「あ、あああの、お初にお目にかかります。えっと、お会いできて、その」
「この子緊張しいなの。でも本当にすごいんだよ」
ぱっと柱の陰に戻り魔女の肩を掴む。
「す、すごいなんて……っ言っちゃダメ」
「だって本当にすごいんだもん」
ぐずぐずと柱の陰で犬の様に震えているそれに、魔女は若干にやにやとした笑みを浮かべて見守っている。ほら、と促されて再び柱の陰から顔を出す。
「わ、私、そ、しょうりょの」
あ、噛んだ。と一同が思ったと同時に大ダメージを受けて倒れるしょうりょ
「私と同じ魔術の里で、僧侶の子」
もとい、僧侶。魔女に揺さぶられて体を起こすと、まるで人形の様に端正な作りの顔をぶわっと赤く染めて俯く。うぅ、と声をこぼす僧侶に、王とひのきの棒が同時に「かわいい」と呟いたのは言うまでもない。
困った風に、しかし微笑を浮かべて魔女は王の方を向く。
「回復魔法の実力はヤバいんだけどね、でもほら、面接がさ」
「あー、なるほどのう。それで、職を探しに参ったのか?」
は、はい、すみません、と頬を赤く染めた僧侶がおどおどと柱から半分姿を現し、大きく深呼吸をする、その視点は定まらない。
「ならば、救護班などいかがじゃろうか」
頭の上にビックリマークが浮かんだような顔で王を見る僧侶。少し間を置いて、慌てたようにこくこくと頷いた。
「やったね! 祝、就職決定!」
どこからともなくとりだしたクラッカーをぱーんと盛大にならす魔女にポンポン叩かれて、茫然としていた僧侶の目尻にじわりと涙が滲む。
「ほっ……ほ、本当ですか」
「本当じゃ」
ぽろぽろととめどなくこぼれだす涙を両手でぬぐい、糸が切れたように僧侶の表情が緩む。よかったよかった、と安堵を見せたのもつかの間
「王様! 大変です!」
開け放ったままの扉から兵士が駆け込み、息を切らして王の前に立つ。
「国民達がっ……暴動を起こしています!」
「原因は」
「その、王を降ろせと……何故か、王様が魔物だと申していて」
王は言葉を詰まらせる。
吊るされたシャンデリアが窓からの光を反射する。
ぎゅっと拳を握り、片手はポケットの中のひのきの棒を掴んでいた。王の様子を見て、魔女と僧侶も不安を滲ませる。
「鎮静はこちらに任せて、王様は一旦身を隠してください。大丈夫ですよ、どうせどこかから湧いたデマでしょうから」
優しく言う兵士の頬には今できたような痣があった。
「だ、大丈夫だよ! 私たちだっているし、ね」
「王様、ここは逃げよう。万が一何かあったら」
「わかっておる」
玉座から腰をあげ、王は赤いじゅうたんの敷かれた段差を降りる。
王は逃げた。
鼻歌を歌いながら書物の整理をしている男、通称先生。ふと目についた魔術関連の古代書を開き、古びて黄ばんだページをぼんやりとめくる。
ぱらり、と背表紙側から何かが床に落ちた。
「ん、何だろうか」
拾い上げてみると、折りたたまれた紙。よれてしわの入った紙を丁寧に開き、中を確認する。
「おや。王様の……」
紙いっぱいに書かれた手紙。おやおや、と言いつつ先生はそれに目を通す。
「流石達筆だが、やはり文章と文字が幼いな。懐かしいものを見つけた」
微笑みながら手紙を眺めていた先生は、一通り読み終えてくるりと紙を裏返した。
え、と声を漏らした。もう一度表を読み返す。
「どうして、この頃の王様が魔王城宛てに……」
眼鏡越しの目を見開き、瞬いていると勢いよく扉が開いた。振り向けば駆けつけてきたらしき兵士が肩を上下させている。
「大変ですっ、暴動が」
「魔物が攻め込んできました!」
はぁっ、と最初に来た兵士が振り向くと、肩を抑えたボロボロの兵士が立っていた。
慌てて先生がカーテンを開けると上空に魔物の大軍が見える。
「と、とうとう来てしまったか……っ王様は」
「既に身を隠されました」
「そうか、なら安心だな」
ほっと息をつき、先生は部屋を駆けだした。
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