??ルートー2



「こ、こちらになります……」


 怯える受付嬢に案内させ、ようやく目当ての部屋に到着した。


「どうも。えい」

「あっ」


 首元を手刀でとすん。

 女性には眠ってもらった。

 この技、昔殺し屋に憧れて武術の先生に習いにいって習得したんだけど。

 まさか人生で使う時がくるとはなあ。

 

 予備のカードキーで鍵を開けて中へ。

 すると、そこにはさっきのギャルがいた。


「え……君はさっきの? どうして?」

「まあ、いろいろわけがありまして。待ってる人なら来ませんよ」

「ど、どういうこと? 隆は、来ないの?」

「はい。一階でおねんねしてます」


 彼女はそれを聞くと、その場にへたり込む。


「ほ、ほんとに? う、うそだったら私、もう、立ち直れない、よ?」

「しっかりやっつけたので、あと数時間は寝てると思います」


 床に座り込むギャルを支えるように駆け寄ると、彼女は少し目を潤ませていた。


 そして、彼女の肩を持ちながら奥に連れて行ってベッドに座らせる。

 少し落ち着くのを待ってから、俺は彼女に聞く。


「あの、さっきの男とは何があったんですか?」


 まあ、ゲームである程度の事情は知ってるけど。

 改めて詳しい状況を聞いてみた。


「……隆は、私の元カレ。働かずに私のヒモみたいになってたからこの前別れ話したんだけど、聞いてくれなくて。それで、手切れ金も用意したんだけどさらにエスカレートしてね。うち、お金持ちだから正直お金のことはいいんだけど……でも、ずっと付きまとわれててしんどくて。もうここで死んでもいいかなって」

「なるほど……でも、自殺してもあいつは平気であなたのお金を持ち去るでしょうし、話し合っても結局いい結果にはならなかったと思いますよ」

「そう、だね。うん、だから今、あいつが来ないって聞いてほっとしてる」

「とりあえず逃げますか。警察には通報しておきますので」


 一緒に部屋を出て、そのあと倒れた受付嬢を一回まで運ぶ。

 ぶっ飛んでのびたままの男の隣に寝かせてから、警察に通報して一度ホテルを去る。


 向こうからファンファンとサイレンの音が響く中、俺たちは人目につかない場所まで移動して。


 路地裏で腰を下ろす。


「はあ……でも、さすがに今回は逃げきれたりしないよなあ」

「ごめんなさい私のせいで。あの、私が自首してきます」

「そんな。あいつを殴ったのは俺なんだし、捕まるなら潔く」

「いえ、君は恩人だから。ねえ、名前聞かせてくれない?」

「龍崎、です。龍崎琢朗」

「ふーん、かっこいい名前。私は加奈。伊織加奈いおりかなっていうの。また、どこかで会うことがあったら、その時は私の相手してくれる?」

「はは、また道に迷ってたら案内くらいはさせてもらいますよ」

「うん。じゃあね琢朗。また」


 小柄なギャルは、自らの足でホテルの方へ戻っていく。

 俺は反対側へ歩いていき、路地を抜けた先からまっすぐ家を目指していき。


 やがて家に着いた。



「……なんか色んな人がいるなあ」


 今回はヒロインはまともだったけど付き纏う男がクソだったって話。

 よくある話だけど、しかしどうしてあんなクズと付き合ったりするんだろ。

 ていうかあんなクズでも女と付き合えるのが不思議で仕方ない。

 ま、なにはともあれこれで四人目もクリアだ。


 ……なんか、ギャルゲーにすっかりのめりこんでないかな。

 別にクリアすることが目的じゃなかったはずなんだけど。


「って、気にしてもしょうがねえか」


 ゲームをつける。

 そしてさっきの子を選択すると、さっきまで???になっていた名前欄に『かな』と表記された。


 で、彼女のいる部屋に行くところまで選択肢を進めると、やはり展開が大きくかわっていた。


『おい、かなとお前はどういう関係だ。もし浮気だっていうならぶっ殺すぞ』


 さっき俺がぶん殴った隆とやらが登場して。

 もちろんゲームの中でもぶん殴るを選択してゲームセット。

 晴れて主人公とかなはグッドエンドを迎えることになった。


「やれやれ、そのままエッチなことでもさせてもらえばよかったよ」


 なんて言いながらも、まあするわけないんだけど。

 無事でよかった。

 それに、見た目より真面目そうな人だったから、ああいう男に騙されてるのは見過ごせない。


『琢朗、今日は私を抱いてくれる?』


▶ もちろんだよ

▶ よっしゃあやるぜ

▶ うっせえ早く脱げ


 ……断る選択肢ないんかい。

 ま、ゲームだから断る理由もないけど。


 ていうかいい加減エロい画像出てこないのかな?

 一応18禁って書いてるから期待したんだけど。


▶ もちろんだよ


『うん、それじゃホテル、行こっか』


 というところで画面が切り替わる。


 テロップで、『琢朗はかなの絶技によって果てて眠っている』と。

 いや、気になるなあその絶技。見せてくれよ。


 ちょっとがっかりしていると、かなが画面に。

 そして、独り言を始める。


『あー、まじでラッキーだったわ。隆から巻き上げた金、返さなくて済んだし。しっかし下手くそねえエッチが。百万浮いたからお礼のつもりで抱かせてやったけど、こいつとはこれっきりかしら』


「……嘘でしょ?」


『あ、ていうか私があげた一万円返せっての。やらせてやったんだから……残りのお金もいただいておこうかしら。さてと、何食べよっかなあ。あと、こいつの身分証も……へえ、龍崎琢朗か。うん、いっぱい脅してお金巻き上げちゃおっと』


 画面が暗くなる。

 しかしバッドエンドは表記されず、代わりにテロップが流れる


『朝目が覚めると、主人公は一文無しになっていた。ホテル代も払えず、ただ働きをさせられたのだが、かわいいギャルが抱けて大変満足したそうだ。 to be continued……』


「いや、生粋のあほなんかこいつ!」


 よくわからんけど、主人公的にはこの展開でよかったそうだ。

 って、いいわけあるかい!

 うわあ、今までで一番クズ女じゃん、あいつ。

 え、もしかして隆さんって、お金だまし取られてた被害者なの?

 そんな人ぶん殴ったの、俺?


「……なんかすんません」


 本気で自首したかった。

 もう、僕が悪かったですと警察に土下座したい気分だ。


「……あ、電話だ」


 さすがにちょっと警戒したけど、電話の主はあやめ。

 ほっとする。


「あ、もしもしたっくん? みゆきは無事に帰ってきたよ。あと、明日は出かけておいでって言ってくれたから、デートしようね」

「そっか。うん、わかった。じゃあ明日、また連絡するよ」

「おけー。じゃあおやすみ」

「おやすみ」


 うん、癒された。

 しかし今日は後味の悪いシナリオだったな。

 なるほど、何度やってもバッドエンドにならなかったっていうのはそういうことだったのか。

 見捨てるが吉。ゲームがそう教えてくれてたというのに俺というやつは……。


 ていうか嘘つきすぎじゃないか、このヒロインたち。

 悪女しかいねえのかよ。


「さっさと、あやめと付き合って終わりにしよう」


 今日こそは、明日のあやめとのデートのシナリオが見れるはず。

 そう期待してゲームを起動すると、なんとあやめが選択できるようになっていた。


「……っしゃ。勝った、これでもう終わりだ」


 意気揚々とあやめを選ぶ。

 すると、画面は商店街に飛ぶ。


 どうやらあやめと二人で買いものを楽しんでいるようだ。


『たっくん、そこのクレープ一緒に食べよ』


 そんなかわいいことを言ってくるあやめに癒されながら、なんでもない平和なストーリーを楽しむ。

 そして二人でベンチに座り、一緒にクレープを食べる場面。


『たっくんって、結構モテるでしょ。彼女とか、いないの?』


▶ いたらなんだっていうんだ? 関係ないだろ

▶ いないけど、昨日ギャルとしこたまエッチしたぜ

▶ まりなの体は案外よかったぜ


 発狂レベルでクズだこいつ。

 いや、確かにゲームの中の俺はまりなとかなに抱かれてるけど、言わなくていいじゃんそんなこと。

 あれは過ち、一晩限りの関係だし。

 ていうかあやめとはまだ何もしてない設定なのか?

 途中で消したからよく見てなかったけど。


 とにかく選択だ。

 うーん。


▶ いたらなんだっていうんだ? 関係ないだろ


 最低だな、俺って……。


『え、まあそうだけど……でも、もしいないなら、やっぱり私、たっくんの彼女にしてほしいな』


 え、まじか。

 まじなのか?

 こんな熱い展開が、明日現実になるのか?


▶ うっせえやらせてくれたらそれでいいんだよ

▶ はるかと3Pな

▶ ギャル飽きた


 ぬおー! なに言うとんじゃわれ!

 最低だ、こいつほんまもんのクズじゃ!


 でも、これを選ばないと先に進まないし。

 実際に明日おんなじこと言われたら、選択肢を無視すりゃいいだけだから。


▶ うっせえやらせてくれたらそれでいいんだよ


『……私なら、いつでもいいよ?』


 まじ天使。

 あやめマジ天使だなおい。

 いや、断ってもいいんだよ? こいつクズだから、性欲の塊だから。


 ゲーム画面のヒロインに同情しながらテキストを進める。

 しかしどうも流れはいい方向に転ぶ。


『じゃあこのあと、家に来る? 私、たっくんなら、いいよ?』


 そのまま家に向かうことになった。

 ということは……明日はあやめとついに合体?

 おいおい、マジか。ちょっとわくわくしすぎて勃っちゃったよ。


「頼むから何も起きないでくれよ」


 クソゲーのやることだから、このあと帰り道でまりなの邪魔が入ったり、はるかの妨害が発生したり、なんならばったりかなに遭遇なんてことも想定されたが。


『あれ、あやめ? 琢朗君と何してるの?』

『あやちゃん、もしかしてデート? 龍崎君、やっぱりそういう関係なんだ』

『あれ、琢朗? あはは、昨日ぶりじゃん』


 まさか全員一斉にやってくるのは想定外だった。

 いやあクソゲーだ。くそもくそ、やりすぎで情報が渋滞してるわ。


『あれ、まりなにはるか、それに昨日の人も。どうしたの三人で』

 

 非常事態、というより異常事態なこの状況にも、あやめは冷静に対応している。

 この時の主人公の心中ってどうなってんの? 俺なら死ぬぞ、普通に。


『主人公は笑っていた』


 やっぱ頭バグってんなこの主人公。

 なんで琢朗ってつけたんだろ。マジで嫌なんだけど。


『私とはるかは今日一緒に買い物する約束してて。で、そこでかな先輩と偶然あってさあ。あやめはかな先輩知らない? うちの三年生』


 え、加奈さんってうちの学校の先輩なの?

 うわあマジか。知りたくなかった。

 うちの学校、やばい女子ばっかじゃん。

 メンヘラ、百合サイコ、そしてゼニゲバ悪女。

 まじでこいつら助けたの誰だよ。


『昨日偶然かなさんとは会ったけど初対面だったから。私たちはね、今デートしてて今から家にいくところ』


 馬鹿正直にあやめがそう答えると、画面が暗転して。

 ゲームオーバーかと思われたが、違った。


 そのあと、場面はなぜか俺の部屋に。

 そしてテロップが流れる。


『主人公はまりなに監禁される。あやめははるかに拉致される。こうご期待』


 ……なにがこうご期待じゃい!


「いや、普通にバッドエンドだろ」


 しかし画面は暗くならない。

 どころか話が進んでいく。


『琢朗君、どうしてまりなじゃなくてあやめなの? しかも昨日かな先輩ともしたんだって? その悪いお〇ん〇ん、ちょんぎっちゃうよ?』


 包丁を持ったまりなが画面に。

 大迫力だ、普通に怖い。

 で、なぜかここで選択肢が出現した。


▶ まりな、俺にはお前しかいない

▶ せめて一回あやめとやってからにしてくれ

▶ かなはめっちゃよかったぞ


 言い訳するつもりあるのかこいつ?

 いや、一番上だけはまともか。

 いや、まともか?


▶ まりな、俺にはお前しかいない


『ふーん、そうやって嘘つくんだ。じゃあ、バイバイ』


「あ」


 画面が暗くなった。

 どうやらまりなに殺されてしまったらしい。


「うーん、他の選択肢だったらもしかしてってやつか?」


 しかし、もう一度プレイしてみたが選択肢を変えてもやはりバッドエンドにしかならない。

 そしてどのルートも、等しくまりな達と遭遇して監禁されて殺されるってパターンだけ。


 いや、どうしろっていうんだこれ?


「……もしかして俺、明日死ぬの?」


 そう思うと、怖くてデートどころではなくなってきた。

 チンピラやストーカーなら殴り飛ばせば済むけど、メンヘラに対してはそうもいかない。

 俺は女を殴る主義は持ち合わせてはいない……って、死ぬかもしれないのにそんな悠長なこと言ってられないけど。


「……どうしよう」


 この後、しつこくいろんなパターンを試したが結果は同じ。

 どうやら、明日満里奈に会ったら死ぬらしい。


 いや、どんなデスゲームだよこれ。

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