ギャルゲーが現実世界とリンクしてる!? しかもどのヒロインもちょっと訳ありだったり病んでるっぽいんだが……
天江龍
神凪あやめルートー1
「うーん」
日曜日の昼下がり。
ゲームショップのワゴンセールを漁りながら一人唸る。
なんてことはない、思いつきだった。
高校入学から一ヶ月が過ぎたってのに、彼女どころか友人の一人もいない俺が、急に寂しくなったところで相手してくれる子なんているはずもなく。
退屈を埋めるため、初めてギャルゲーでもしようなんて考えてみただけのこと。
ただ、どれもこれもクソゲー臭漂うものばかり。
やったことはなくても見たことあるタイトルくらいはあるが、古いものばかりだし。
まあ、安物で済まそうとしてるんだからどこかで妥協しなきゃだけど。
「……あれ、見たことないやつだなこれ」
ガサガサと品定めを始めてしばらく経った時。
ようやく、目に留まるものがあった。
「ときめき……学園パラダイス?」
どうも二世代くらい前に流行ったタイトルを足して割ったようなものだけど、パッケージに書かれた絵は結構綺麗で。
表表紙に説明を読むと、そこには俺の通う学校の名前が書かれていた。
「
もちろんただの偶然だろうが、こんな偶然は運命を感じずにはいられない。
その後の説明には『ヒロイン達に降りかかる問題を解決して、彼女達を救ってあげよう』と。
なんかそこはありきたりだけど。
他に目ぼしいものもないし、これにするか。
不幸なヒロイン達ねえ。
うむ、救ってやるとしよう。
何気なく、勝手にそんなくだらない決意をしてゲームを手に取る。
なんか、手に吸い付く感じがする。
中古だから仕方ないか。
値段は……ん、これだけ三千円?
ちょっと高いけど、それだけ面白いタイトルってことなのかな。
ちょうど、俺の持ってるハードに対応しているし。
これでいいやと、さっさとレジに並んでそのゲームを購入した。
◇
「さてと……お、ついたついた」
県外から単身アパートに移り住んで現在は一人暮らし。
実家ではリビングにしかテレビがなかったから明るい時間からこんなゲームなんて出来なかったけど。
今は親の目を気にせずにゲームできるってだけでちょっと興奮する。
家に帰ってすぐ、部屋でさっき買ったゲームを起動するとテレビ画面に大きく映ったのはなんとも可愛らしい女の子達の画像。
なんか新しいゲームをやる時ってワクワクするなあ。
……高校生にもなって中古のギャルゲーに一喜一憂してるってのもどうかと思うけど。
こういうゲームで女心ってやつを知れば……って、そんな上手い話はないか。
「さてと……まずはヒロイン選択か」
最初に選択できるヒロインはなんとたった一人。
制服を着崩したギャルだけだった。
普通、何人か選択できるんじゃないの? 知らんけど。
まあ、一応後ろでシルエットになってる子もいるから、この子を攻略したら新しいヒロインが出てくるってやつか。
で、俺は渋々ギャルを選択した。
ギャル、あんま好きじゃないんだけどなあ。
ゲームの中でくらい、わがままに女の子を選ばせてくれって話だが。
しかし、なんとまあ、制服までうちのと酷似してる。
もしかして、製作者がうちのOBとかなのかな。
「ま、なんにせよリアリティがあっていいじゃん」
ギャルを選択すると、早速ストーリーが始まる。
どうやら教室からスタートのようで、早速ギャルが俺に話しかけてくる。
『あれー、今日も一人? 君、友達いないの?』
なんでもない会話から。
そしてすぐに名前を聞かれた。
「ええと……どうせなら、本名でやってみるか」
小学校の時はオタクロウとかブタロウとか言われたこの名前は、そんなに好きじゃないけど。
今は誰が見てるわけでもないし、ゲームの世界の子は悪口言ったりしないだろうから、どうせなら本名で呼んでもらった方が萌えるってもんだ。
『ふーん、琢朗か。じゃあ、たっくんだね』
なんと、瞬時にニックネームまでつけてくれるとは。
最近のゲームはよくできてるなあと感心しながら、会話を進めていくと。
お決まりの選択肢が早速やってきた。
『私、この後暇なんだけどよかったら一緒に帰らない?』
▶︎ うん、いいよ
▶︎ ごめん、今日は忙しくて
なんともまあ唐突な誘いだ。
こんなにホイホイ女の子に誘われたら人生どんなに楽か……って、今はゲームなんだからそんな愚痴をこぼしてもしょうがない。
「もちろん、いいよっと」
選択すると、『ほんと? よかった、じゃあ一緒に帰ろっか』なんて言って、ギャルが微笑みかけてくれる。
それを見てちょっとニンマリ。
他人に見られたらキモいだろうけど、寂しい童貞男子のゲーム風景なんてだいたいこんなもんだろう。
んで、場面は帰り道に移る。
なんか背景も結構リアルというか、学校を出たところの住宅街まんまだ。
やっぱりうちがモデルなんだろうなあ。
でも、急にギャルに声かけられて一緒に帰るってのは、ちょっとリアリティないな。
もうちょっときっかけというか流れってもんが……って、あくまで恋愛を楽しむもんだからそんなグダグダした過程は需要ないのかな。
『たっくん、自己紹介が遅れたね。私、あやめっていうの。たっくんは、このあと行きたいところある?』
ここでまた選択肢。
▶︎ ホテル、行こ?
▶︎ 家、行こ?
……え、二択?
どっちもどっちだけど、これって正解あんのかな?
「うーん、でもどうせならホテル誘っちゃおっか」
現実ではできないことをやるのがゲーム。
どうせゲームオーバーになったら最初っからやり直せばいいんだし。
ホテル、行こっか。
『……うん、いいよ。じゃあ、あそこのホテルにしよっか』
なんとまああっさりと。
とんだクソゲーだなあ。
いや、最初のヒロインなんてこんなもんか。
場面はすぐに、ホテルの部屋に。
そして会話を進めると、『シャワー、浴びてくるね』と言って、顔を赤らめたギャルが画面から消える。
ちょっとだけ、ドキドキしてきた。
次に彼女が出てきた時は、やっぱりそういうことになって……。
やばっ、なんかこういうのいいなあ。
ええと、主人公のハラハラとかどうでもいいからスキップスキップ……。
『おい、人の女になにさらしとんじゃオラ!』
「え……?」
急に、画面に現れたのはヤンキーみたいな茶髪の男。
なにこれ? え、ギャルは?
『おい、警察に言われたくなかったら金出せよ。あと、そこで裸になって土下座しろや』
なんか唐突な展開に頭が混乱する。
で、会話を進めていくと『このあと、持ち金全部を取られてボコボコにされた挙句、服まで取られてホテルから出られなくなりました』なんて解説がついたあと、画面がブラックアウトして。
タイトル画面に戻った。
「……なんだこれ?」
いや、バッドエンドってやつなんだろうけど。
とんだクソゲーだ。
いきなり誘われたかと思ったら美人局でした、以上ってか?
いや、ないない。
ていうかそんな女、どう攻略したらハッピーエンドがあるってんだよ。
「あー、なんか萎えたわー」
一気に気持ちが冷めた。
俺の興奮とこの数時間と三千円を返してほしい。
「……寝るか」
そっと、ゲームの電源を落としてベッドに寝転ぶ。
まあ、案外さっきみたいな展開の方がリアルなのかもな。
いきなりギャルに誘われて、そのままエッチな展開なんて方がおかしいし。
あーあ、俺ってゲームの世界でも童貞かよ。
ほんと、くだらねえ。
◇
翌日。
昨日のギャルゲーのせいで小遣いが減った俺は昼飯を我慢して空腹に耐えながら一日を過ごす羽目になった。
そして気づけば放課後だ。
早速だけど、あれは売ろう。
千円くらいで買い取ってくれないかな。
いや、いくらでもいいから売り飛ばしてやる。
「あれー、今日も一人? 君、友達いないの?」
一人荷物をまとめながらイライラしていると、甲高い声がした。
「……ん?」
「あはは、君だよ君。この後暇? よかったらさ、一緒に帰らない?」
目線を上げると、目の前にはギャルが立っていた。
ん、どっかで見たことある展開だけど……。
「え、俺!?」
「あはは、そんな驚かなくていいじゃん。私、
「あやめ……」
その名前も聞き覚えがあった。
待て、これって昨日やったクソゲーまんまじゃね? いや、ただの偶然……にしても名前まで?
「え、えと……」
「ねえ、どっちなのよ。暇なんでしょ? だったら一緒に帰ろうよ」
「……」
もちろん話したこともないクラスメイトの神凪さんに突然グイグイ来られて俺は戸惑う。
でも、選択肢は一緒に帰るか断るか、だけど。
「う、うん。いいけど」
「よかったー。うん、じゃあ一緒に帰ろ」
一瞬、ゲームのバッドエンドが頭をよぎったのは事実だ。
でも、あんなクソな展開はまああり得ないだろうし、理由こそわからないけど女の子からの誘いなんて僥倖をやり過ごす手はないだろう。
神凪さんって猫目でキツそうだけど美人だし、いい香りするし、スタイルいいし崩したシャツの胸元から下着見えそうだし。
……でも、流石にホテル誘ったりはねえな。
「どうしたん? さっきからずっと黙ってるけど」
「あ、ごめん……ちょっと緊張、してて」
「あはは、そんなかしこまらなくていいのに。クラスメイトじゃん」
「そ、そうだね」
自然と一緒に校舎を出て。
俺はまっすぐ行けば自宅があるんだけど、彼女は角を右に曲がったのでそれについていく。
すると、繁華街の裏手にあるホテルが見える。
また、昨日のゲームが頭をよぎる。
「名前、そういやなんていうの?」
「俺? ええと、龍崎琢朗、だけど」
「じゃあたっくんだ。たっくん、この後時間ある?」
「まあ、別に帰ってもやることないけど」
「そっか。じゃあさ、あそこいかない?」
「……え?」
ギャルが指差す先にあったのはラブホテルだ。
……うそだろ?
「え、いや、それは」
「えー、もしかしてたっくん童貞? いいじゃん高校生なんだからそれくらい。それにさ、あのホテルなら受付も人いないからこのまま入れるし」
「で、でも……」
「それとも、私とじゃ、嫌?」
ねだるように顔を近づけられて、甘い香りが俺の鼻腔を刺激してそのまま脳を焼く。
こんな状況で正常な判断は不可能だった。
気がつけば流れに身を任せてラブホテルに入っていて。
神凪さんと二人、ホテルの一室にいた。
「……あのー」
「なによ、ここまで来てビビった? 今日さ、ちょっと色々あって憂さ晴らし。付き合ってよ」
「う、うん……でも、なんで俺?」
「んー、別に誰でもよかったんだけど、たまたま一人だったし」
「そ、そう」
もちろんそうなのだろうけど、ちょっとガッカリなんてしながら。
やがて神凪さんは「シャワー、浴びてくるね」と言って、奥に消える。
ベッドに腰掛けた俺は、枕元に置いてあるコンドームに目が行く。
……あれ、どうやって使うんだっけ?
実際、ちゃんと入るのか?
いや、ていうかこんなことあるの?
いきなりギャルに誘われて、流れでホテルに入ってそのまま……なんて。
それこそ、これが美人局だった方がやっぱりリアルってもんだけど……。
『ガンガン』
彼女が奥に消えたすぐ後で。
部屋の扉が思い切り叩かれる音がした。
なんだろうと、様子を見に行ったその瞬間。
勢いよく扉が、開く。
「おい、人の女に何さらしとんじゃオラ!」
そして、勢いよく茶髪の男が部屋に飛び込んできた。
柄シャツ姿の、大学生くらいの男。
この展開も、どこかで見たことあった。
だけどもちろん俺はびっくりして後退りした。
「……え?」
「おい、あやめに手出してタダで済むと思うなよ? いいから金だせ。あと、裸で土下座しろ」
さっき一人くらい人を殺してきましたみたいな人相で俺を睨みつける。
そして神凪さんが、制服姿のまま風呂場からそろっと出てくる。
「あ、あの……神凪さん、これって?」
「……ごめんなさい」
ぽそっと。
そのあと、静かに先に部屋から出て行く。
「あ、待って」
「お前の相手は俺だってんだよ。 いいから、警察に言われたくなかったら金だせやオラ!」
男は俺に迫る。
言うことを聞かないならぶん殴るぞって感じがひしひしと伝わってくる。
待て待て、ここまでゲームと現実が類似することってある?
ただの偶然だとしても、出来過ぎじゃないか?
あのゲームは一体……。
「おい、聞いてんのか? オラ、こっち見ろや!」
男は今にも殴りかかってきそうな勢いで前のめりになる。
表情も、昨日やったゲームに出てきたヤンキーそっくりだ。
でも、これは現実だ。
「……なら、この状況だと正当防衛も成立するよな?」
「なに……ぐはっ!」
睨みをきかせる男の顔面を、思いっきりぶん殴ってやった。
久しぶりの感触だ。
拳に残る適度な痛みと、相手を吹っ飛ばした時の不快感。
もう、人を殴ることなんてないと思ってたんだけどなあ。
「……あーあ、気絶しちゃった」
ぱっぱっと。
手を払って入り口にぶっ倒れる男を見ながら俺はそのまま部屋を出る。
龍崎琢朗。
高校生になってから陰キャを演じて平穏な日々を過ごそうと決めた俺だけど。
中学の時はそういや『殺人兵器』なんて異名があったのが懐かしい。
あのころの黒歴史が自己防衛に生きるとは皮肉な話だけど。
とりあえずさっさと帰ってあのゲームを起動だ。
ただの偶然にしてはおかしすぎる。
……一体、あのゲームはなんなんだ?
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