第40話 ギルドハウス②
「うん、いいな……すげぇいいと思う!」
「あ、ありがとうございます……!」
「じゃあ、早速ギルドハウスを解放して――」
とインベントリに伸ばした手をコヨリに止められる。
「ごめんシア、水差して悪いんだけど」
「はい?」
「カサディスシティの一軒家なんて、買うのはもちろん、借りるにしても相当頭金がかかると思うんだけど……あなた、そんなにお金持ちだったの?」
「ええ、これまでPKした人たちが落としたものがありましたので」
ジト目をこちらに向けてくるコヨリ。
……いや、別に俺が指示したわけじゃないんだから、そんな目で見られても困る。
「あー……えっと、とりあえずこれからはそういう強奪行為は禁止ってことで、どうか一つ……」
そう言うと、苦い顔をしたコヨリが溜息を吐き、呆れたように天を仰ぐのだった。
◆ ◆ ◆
シアの案内で向かったのは、メインストリートから一本横に入った道にある、通りに面した小さな一軒家。
多少老朽化しているが、立地は非常にいい。
コヨリもそれが気になったのか、しばらくそわそわした後、好奇心を抑えられなかったのかシアの肩を控え目に叩く。
「……ここ、いったいいくらしたの?」
「230Mほどです」
懐かしいな、その単位。
えっと……1Mが100万だから、2億3000万ってところか。
「におっ……は、はぁ!?」
今までに聞いたことのないような声量でコヨリが叫ぶ。
うん、その反応で大体察してしまった。
こういったギルド絡みの施設は大抵、数十人のギルドメンバーが集まった後、何か月もかけて少しずつ寄付を募った末にようやく手が届くような金額設定になっている。
それをたった一人で、しかも一括払いしてしまったということは……つまり、それだけPKを重ねてきた証左に他ならない。
「文字通り私の全財産ですが、構いません。私の全てはレイさんにと、そう誓いましたので」
「……レイ、ちょっと」
コヨリに袖を引かれ、少し体を傾けてその口元に耳を寄せる。
「どうするのよ、これ……。このままだと私たち、あの子にとんでもない借りを作ることになるわよ……?」
「って言ったって、なあ……?」
「あなた、一方的な関係は苦手だって言ってたじゃない。これはそうじゃないの?」
「うっ……痛いところを突いてきやがる……」
ギルドハウスが手に入る、と舞い上がっていたが、少し冷静になって考えてみればコヨリの言う通りだ。
「……ちなみにコヨリ、今いくら持ってる?」
「ストックしてるレアドロップアイテムとかを全部売ってもせいぜい10M程度よ……」
「半分どころか1割にも満たないな……」
「それだけの金額ってこと。カサディスシティのこんなに好立地な建物……契約料もそうだけど、そもそも市場に出回ること自体が稀なのに……」
かといって便利屋の件を諦められるかといえば……正直かなり惜しい。
シアの噂を広められるのはもちろん、多くのプレイヤーと接点を持てる関係で、普通にギルドをやるより情報も入ってきやすい。
妹に責任を感じていて、何より本人にがいいと言っていることだし……と甘えるのは簡単だが、この借りはあまりにも大きすぎる。
「……分かった。シア、こいつを受け取る代わりに、一つ条件を飲んでくれ」
「条件……ですか? そんなものなくても、私はあなたに――」
「君は俺のことを無条件に慕ってくれるけど、できれば俺は対等な関係でいたい。だから頼むよ」
対等な関係、という言葉に少しだけ目を輝かせ嬉しそうな表情を見せたシアだったが、それから困ったように目を伏せ思案を始める。
「……レイさんがそれをお望みなら」
「よし、じゃあ交渉成立ってことで」
「それで、条件とは?」
「便利屋を始めるからには当然依頼料を取るわけだ。で、その中から君の取り分とは別に何割かを追加で支払う。上限は……そうだな、合計が100Mに届くまで」
もし仮に100Mを払いきったところで、230Mのうち130Mをシアが支払ったことになるので三分割できていない。
それでも、出所がPKをして手に入れた汚いお金であることと、便利屋をやらざるを得なくなった責任の一端をシアが担っている……ということで納得してもらおう。
まあ、そもそもこのビジネスが軌道に乗るかはまだ分からないのだから、シアにとっては最初から分の悪い分配だ。
「本当は一銭も受け取る気はありませんでしたが……分かりました」
シアは渋々といった感じで了承してくれる。
……この渋々が分配を受け取ることに対してなのが変な話だが、まあこれでよしとしよう。
「で、こんな感じなら文句ないか? コヨリ」
「……タダで受け取るよりはマシ、か。いいわ、それで納得する」
これで三人の合意が取れたということで、改めてギルドメニューを開く。
すると、<<ギルドハウスキー>>を持っているためかギルドハウスを解放する、というコマンドがアクティブ化されていた。
ああ、こういう新要素を解放する瞬間っていうのはいつだって興奮する。
できる限りそんなワクワクを抑えながら、二人に見守られる中でギルドハウス解放ボタンを押した。
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