第15話 決着
「確殺数は増えるけど、別にダメージが入らないわけじゃないからな」
持ち替えた直剣で首への有効打から、続けて腕の腱、内腿、脇と杖でのガードをすり抜け続けてクリティカルを取っていく。
「す、【ストーンエッジ】!」
DOTも入り続けているため、さすがに自分のHP減少速度に焦ったのか、ロゼットは魔法で反撃を試みる。
ただ、至近距離での自キャラを狙った魔法ほど避けやすいものはない。
いくら魔法にヒット補助の誘導があるといっても、それが最大限機能するのはこちらとある程度距離が離れている場合に限る。
特に一度空中に展開してから射出される【ストーンエッジ】は真下に落ちるような軌道となるため、少しでも立ち位置をずらせば当たることはない。
「こんな時、カイルがいてくれれば……!」
「いや、ほんとに」
軽口を叩きつつ、脇腹に一撃入れながら側面に回り降ってくる岩を回避する。
この戦法が通じているのは俺とロゼット、コヨリとネロという疑似的な一対一が成立しているからだ。
俺を無視できないのはこうして一人を集中して攻撃できているからで、ターゲットを分散させられたり横槍を入れられるような状況では、どうしても俺のレベル不足が足を引っ張る。
だからカイルが生きている状況ではこの奥の手は出せなかったわけだ。
そして最後の使用からそろそろ30秒。
杖がこちらに突き出されるモーションに合わせて――
「【リジェクション】!」
再び【クロススイッチ】で大鎌に切り替え、弾き飛ばされながらロゼットの首元にクリティカルの一撃を入れた。
「あーっ、もう! トラップに引っかからない、【ストーンエッジ】も当たらない、近距離では殴られ放題……こんなダメージ手段があるなら無視もできないし、いったいどうすればいいのよ!?」
と、ヤケクソ気味に叫んだロゼットの表情に希望が宿る。
「っ!?」
今は振り返る時間が惜しい。
数歩だけだが助走をつけ、大鎌を地面に突き立て棒高跳びのような要領で空中へ離脱。
飛んできた剣撃は大鎌を砕き、それを支えに空中にいた俺を弾き飛ばす。
「は、はあっ!? なに当たり前みたいに真後ろからの攻撃に反応してるのよ!? ……で、でも、これであなたは逃げられない! 決着よ!」
「ああ、そうだな。これで決着だ」
空中に投げ出された俺をターゲットする【ストーンエッジ】。
【クロススイッチ】には連続使用できない制約がある。
今からインベントリを開き手動で武器を入れ替えようにも恐らくは間に合わないだろう。
さすがに素手で魔法を受け流せるわけもなし、詰みだ。
そして岩の塊が俺に直撃する寸前に――
<<Your Team Win!>>
という無駄に豪華な文字が表示され、ファンファーレと共に【ストーンエッジ】は光の障壁に阻まれ無効化された。
◆ ◆ ◆
その後、俺たちはキルされたプレイヤーも含めフィールドの一か所にワープさせられた。
画面の右下には退出ボタンと、10分後に強制退出される旨のポップアップ。
その間にお互いの健闘を称え合うなり反省会をするなり好きにしろということだろう。
「あーっ、クソっ! 焦っちまった!」
最初に声を上げたのはネロだった。
「す、すみませんリーダー……私が削られすぎたせいですよね……?」
「回避スキルも使わずに魔法を避けてくるような相手だったんだろ? なら仕方ねぇよ」
「でも……そのせいでリーダーが……」
パーティメンバーのHPや状態は視界の端に表示される仕様だ。
戦闘の様子は見えなくても、HPの減り具合でだいたいの戦況を知ることができる。
一気に大ダメージが入っていなくても、少しずつ少しずつ減っていけばそれは劣勢の揺るがぬ証明であり、大事な場面であるほど気が気でなくなるだろう。
恐らくネロはロゼットのカバーのために大剣の遠距離スキルの一つ【烈風斬】を使って俺の背中を狙った。
しかし、コヨリを前にしてそんな甘えた行動が通るはずもなく、それが勝敗を分けることとなったわけだ。
「……ねえレイ、聞いてもいい? あなたどうして、後ろからリーダーの攻撃が来るって分かったの?」
とロゼットが話しかけてくる。
どうしてと言われても、こっちもほとんど咄嗟の反応だったわけで。
「えっと……こういうゲームやってると何となくなんですが、気配みたいなのを感じるようになるんですよね」
「え、気配……?」
「いやいや、もちろん比喩ですよ!? 比喩!」
怪訝そうな顔をするロゼットにぶんぶんと手を振って否定する。
現実的に気配なんてものは無ければ、スキルを使わずして背後の様子を把握することもできない。
「あのタイミングでロゼットさんがほっとしたような表情と、攻撃の射線から離れるような動きを見せたので……あ、これは後ろから攻撃来てるな、って。どんな攻撃かまでは分からないので、その後の状況は最悪でしたけど」
経験と勘が見せる一種の勘違い、未来予知の紛い物――それが気配の正体だ。
必ずしも正しいものとは限らないし、裏目に出て状況を悪くしたりもする。
けれど、脳内で響く警鐘はギリギリの戦いであるほど無視ができず、そして従った時のリターンが大きい。
「はぁ……なるほどね。というか、あなた戦ってる時と性格変わってない?」
「ああ、その人バトルジャンキーだから。気をつけた方がいいわよ」
「……」
せっかく二人で勝利を勝ち取ったというのに、お疲れ様の一言もなく最初のセリフがそれか……と俺は思わず天を仰ぐのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます