第11話 反撃開始①

「へへっ、いいこと言うじゃねえか、レイ。うちのギルメンをそこまで褒めてくれるのはお前くらいのもんだ」

「昨日リプレイを見て、そして今日間近で戦いを見て思いました。いいギルドですね、【カイザーズユニオン】。ちょっと入ってもいいかなって思えるくらいに」

「そりゃあよかった。喜べよ、今日からお前はうちの一員だ。見習いをすっ飛ばして正規メンバーに加えてやる」


 既に勝った気でいるネロに、一歩前に歩み出て指を振ってみせる。


「昨日も言ったはずですよ、それはあなた方が勝った場合の話だって」

「おっと、そうだったな。それじゃあ――」


 そう言って大剣を振りかぶるネロ。

 挑発すればスキルの一つでも吐いてくれるかと思ったが、そこまで甘くはないらしい。

 というより、俺がナメられすぎててスキルを使うまでもないと思われてるだけか。


「さっさと試合決めて、お前らの入団パーティーのために予約した、ちょっとお高い飯屋に行くとしようぜ!」

「はははっ、なんだよそりゃ!」


 笑って言いながら上体を逸らし、斜めに振るわれた大剣を難なく避ける。

 ちなみに、避けたからといって俺に有効打があるわけじゃない。

 そう、文字通り回避しただけだ。


「なっ……にぃい!?」


 後ろから走り込んできたコヨリが、地面を斜めに抉った大剣の側面を踏み台に跳躍。

 そのままネロの首元目掛け左手の長刀を振るう。


「っ、【キャスリング】!」


 しかし、カイルが寸前のところで味方と強制的に位置を入れ替え、攻撃対象を自分に移すスキルを発動。

 咄嗟のことで盾を持ち替えていなかったのか、中量のラウンドシールドではなく軽量のバックラーで正面から受けてしまいガードごと弾かれる。

 STR値の判定負け、ガードブレイクだ。


「殺った……!」


 崩した側のコヨリは悠々と着地し、そこから腕を交差させスキルの構え。

 

「【狼戯廻悌ろうぎかいてい】!」


 神速の踏み込みからのX字斬り。

 さらに右手の短刀を素早く逆手に持ち替え、くるりと回転しながら脇をすり抜けるようにして首元に追撃を一閃入れる。

 【狼戯廻悌】――ガードブレイク、デバフ、状態異常、装備破壊等による武器の非所持など、相手が何らかの悪性状態に陥っている時にダメージが大幅に上昇し、状況によってはクリティカルの発生する追撃が確定する攻撃スキル。

 そして、仮にこの一撃で倒せなかったとしても――


「カイル! まだだ!」

「分かってるけど、後ろを……!」


 そう、スキルのモーションの都合で、対象の正面から打ち込めば発動後は必然的に相手の背後を取ることになる。

 対人戦においてはどちらかと言えば追撃の方が本体とも言えるようなスキルだ。

 もちろんデバフ時のダメージ上昇効果の方も有用だ。モブ相手でもボス戦でも腐りにくい。

 ……ちょっとほしいな、あのスキル。

 スキルの特性上二刀流前提で、どちらかの武器が取り回しのいい軽量武器である――こんなところが取得条件だろうか。

 これを狙ってダガーなんかを使ってみるのも悪くないかもしれないな。


「本当にギリギリってところだけど、これで一枚」


 振り向きざまの一薙ぎでカイルの首が飛び、体が光の粒子となって消えていく。

 さっきの【キャスリング】……前でヘイトを集めていた俺に気を取られず、コヨリの動きに注視していなければ成立していなかった。

 勝ちを確信していたネロと違い警戒を解いていなかったか、あるいは油断しつつも何となくの勘で対応してみせたか……どっちにしてもさすがと言わざるを得ない。

 あれは別ゲーでもタンク専だったな。その辺のプレイヤーとは年季が違う。

 なんにせよ、ナイスファイトだ。


「よし、ミッションコンプリート! 離脱しますよ、コヨリさん!」

「もう……この、バカ……! 作戦バラしてどうするのよ……!」

「大丈夫ですって。バフの効果時間数えられてる時点で、どうせここからの行動なんてバレバレですから」

「そういうことだ! 逃がすわけねえだろ!」


 走り出した俺とコヨリの前に立ち塞がるネロ。

 しかし足を止めれば背後からロゼットのデバフスキルが飛んでくる。

 俺がそっちを見れば疑似的な一対一の状況を作れるだろうが、いかに妨害職が相手と言えどこのレベル差はどうにもならない。

 俺の攻撃が大したことないことがバレれば、俺を無視してコヨリにターゲットを集中するだけでゲームセットだ。

 そんな簡単なことにロゼットが気づかないはずがない。

 だから、どうにかしてコヨリだけでもこの場から脱出させなきゃいけないというわけだ。


「もうお前を甘く見ねえぞレイ! 倒すのを確認するまで攻撃はやめねえ!」


 息巻くネロはスキルの構え。

 横目でコヨリを見るとこくりと頷き俺の一歩前に出てくれる。

 よし、恐らく意図は通じたはずだ。


「【破断剣】!」


 しかしコヨリのバフもさすがに時間切れ。

 上段から振り下ろされる強烈な一撃を受け流しきれず、左手の長刀を取り落としたうえ貫通ダメージによりHPを7割近く持っていかれる。

 

「っ!」

「終わりだ! コヨリ!」

「そうはいかないんだなぁっ!」


 よろめくコヨリの背後から飛び出した俺は、手にした土をネロの顔面目掛けて投げつける。


「【破断剣】の攻撃後硬直は1.9秒、確定反撃をくらいな!」

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