第21話 鹿島さんと桜井さん①

「一応聞いておきたいんだけどさ」

「うん? どうしたの?」


 俺は一つだけ確認しておきたい事があったので、それを聞いてみた。


「桜井さんは彼氏とかはいないの?」

「んー? 今はいないけど?」

「あ、そうなんだね、ふむ……」


 俺はとりあえずそれだけ聞いて安堵した。 桜井さんはスクールカースト最上位でバリバリの陽キャだから彼氏とか普通にいそうだと思ったんだけど、今はいないようだ。


 いや流石に彼氏持ちの女子を攻略するのは良くないしさ……ってか、相手の彼氏にバレたら俺絶対に殴られるよね? ということで暴力沙汰に巻き込まれるのだけは嫌だから、俺は事前に彼氏の有無についてを聞いてみたわけだ。


「それで? どうするのかな? 倉橋君はどうしたいのかな?」

「うん、それなら全然良いよ。 でもさ、俺経験一切無いからさ……桜井さんの事気持ち良くなんてさせる自信は一切無いよ? まぁそれでもなるべく頑張るけどさ」


 なんだよコイツ下手くそかよ……って百戦錬磨の桜井さんに言われたら確実にメンタルにきてしまうから、俺は桜井さんのハードルを思いっきり下げとくために童貞アピールをしておく事にした。 いや決してヘタレてる訳ではない(童貞はとても繊細)


「……ふふ、倉橋君は男の子なのに健気な事言うんだねぇ。 でも大丈夫だよ、私が君の事を気持ち良くなれるようにリードしてあげるからさ」

「お、おっふ……」


 え? 何この人ドチャクソエロすぎない?? 童貞に優しいギャルなんて現実には存在しないのに、こっちの世界神かよ。 あもう俺一生こっちの世界で暮らすわ、元の世界になんて帰れなくていいわ。


「それじゃあ、いつしよっか? 倉橋君はいつ空いてるとかある?」

「え!? も、もうそんなんいつでも全然大丈夫ですよ! あ、でも今金欠だからラブホ代とか出せないし、少し待ってくれると有難いんだけど……」

「あはは、ホテル代なんて私が出すに決まってるじゃん。 でもさ、さっきから倉橋君は健気というか、人が良いというか……ふふ、倉橋君は良い男だねぇ」

「え、そ、そうかな?」


 よくわからないけど、桜井さんからの好感度が少し上がったようだ。 いや何かもう色々と都合の良い展開になってる気がするけど、まぁそれに乗っかるしかないよな!


「ふーん、でもそっかぁ……倉橋君はいつでもいいのか……ふふ、それじゃあさ……」

「う、うん?」


 俺はそんな事を思っていたら、桜井さんは俺の手を握ったまま顔をどんどんと近づけてきた。 そして桜井さんが俺に近づいてきたおかげで、彼女からふんわりと甘い香りが漂っているのも感じ取った。 これは香水? それともボティミスト? 童貞な俺にはよくわからないけど……まぁとにかくその甘い香りに俺はまた心臓のドキドキが加速していった。


「ふふ、じゃあさ……このまましよっか……?」

「え……?」


 そんなドキドキしまくっている俺なんだけど、桜井さんはそんな俺にお構いなしにどんどんと顔を近づけていき、そして俺の耳元でそう囁いてきた。


 そう囁いた後はすぐに俺の耳元から離れ……そして桜井さんは微笑みながら俺の顔を見つめてきた。 いやもう心臓が爆発しそうです。


「……嫌?」

「い、嫌じゃないけど……」

「ふふ、じゃあ……いいじゃん、ねぇ……?」

「え……? あっ……」


 そう言うとまた桜井さんは俺の顔を近づいてきて……そして目を閉じながらゆっくりと唇を重ねようとしてきた。 俺は何も抵抗をせずそのまま桜井さんに身を委ねた。 そしてお互いの唇が触れ合いそうになったその瞬間……


―― ガラガラッ!


 その瞬間、教室のトビラを開ける音が響いた。 俺はビックリとしながら慌ててトビラの方に顔を向けた。 するとそのトビラから現れたのはまさかの鹿島さんだった。


「わわわわ忘れものー♪」

「ん?」「ん?」

「え?」


 鹿島さんは何故か鼻歌交じりで楽しそうな感じで教室に入って来たんだけど……俺と桜井さんの姿を見ると一転してピクリとも動かなくなってしまった。 場が凍ってしまった瞬間である。


(あ、やば……鹿島さんの脳が破壊されるかも……)


 だって誰がどう見ても“俺と桜井さんがキスをしようとしている場面”にしか見えないからな。 これ自分の立場に置き替えたら、絶対に脳が破壊されるわ。


 ……さぁ、というわけでここからは鹿島さんの脳を救出する戦いが始まるぞ。

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