えん





 あのまま死に絶えるはずだった私は今、過去の世界にいた。

 私が六歳。王子が好きだから協力してほしいとだれかれ構わずに言った年だ。


 いいですね。

 私を生き返らせてくれた女神の言葉がよみがえる。


 姿を見られてもいい。

 正体さえばれなければいい。

 ただし、正体がばれたり、三日間の内に願いを叶えなければ、鯉になって時空の狭間に閉じ込められる。


 うんいやですせっかく生き返ったのですから王子に執着せずに、王子にワライダケを食べさせることに躍起にならない、自由に生きる道を歩みたい。

 そのためには過ちを正さなければならない。

 そう。王子に好きだと告白したのが過ち。

 いいえ。それ以前、王子が好きだと周囲の人間に言ったのが過ちだったのだ。

 秘めたままにすればよかった。

 叶わない恋だと、恋だったと、時々痛みに耐える人生を選べばいい。

 王子が私以外の人間と結婚した時に少しでも祝福できる人生を選べばいい。

 選んでみせる。




 だから私は今、とっつかまえて暗示をかける、もとい説得すべく、過去の私が一人になる瞬間を狙って草陰に隠れていた。











(2022.6.13)


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