女バスの監督に就任した俺が、愚直なキャプテンと密着スポコンラブ?

団田図

第1話 デパートメントストア

(体育館でバッシュが床にこすれる音 キュッキュッ)

(バスケットボールのドリブル音 ダムダム)

「はっ!えいっ!んっ!はぁはぁはぁ。えいっ!えいっ!んっ!はぁはぁ」

 

(体育館の扉が開く音 ガラガラガラガラ)

「ん?ん?ちょっとちょっと!あなた!部外者でしょ。ダメですよ勝手に入ってきたら。警察呼びますよ。さっさと出て行ってください。

 あら?名札下げてるじゃない。あなたのお名前は・・・

 あわわわわわ。も、も、もしやあなた様は、ここ、私立聖グルガングン女子高等学校バスケットボール部監督に就任されたお先生様。

 ぶ、無礼な態度をとってしまい、大変失礼いたしました。来られるのは明日からだとばかり思っておりまして、その、つい変質者と間違えてしまいました」


小声「そんなゴムの伸びたジャージを着ていたら誰だって同じことを考えますってもんですよ」


「あわっ。聞こえてましたか?ごめんなさい!!え?私は誰かって?

 申し遅れました。私は、この伝統ある女子バスケットボール部、総勢37名を束ねるキャプテンをしております。3年A組の千夏ちなつと申します。小柄ではございますが、チームの司令塔として、ボール回しをしております。今は、部員たちが集まる前に、自主練をしていたところです。こんな汗だくな姿で初めましての挨拶をしてしまって、すみません。

 ちなみに監督は今までどちらのチームでバスケを教えていらしたんですか?」


大声「え?え?え”え”え”え”え”え”え”ーーー!!!バスケ未経験なんですか??!!!」


「なんてこった。このままではまずいですよ、監督。部員たちがそのことを知ってしまったら士気がさがって、練習がおろそかになり、インターハイを逃しかねません。


 むむむむっ。むむむむっ。


 仕方ありません。ここは私に任せて、強豪チームの監督をしていたってことにしましょう。例えば、練習中にですね、監督が私の耳元で支持をしている風を装っていただければ、私が部員たちに的確な指示を伝えます。こんな風に」


耳元小声「ゴニョゴニョゴニョ。フニャフニャフニャ。ホニャホニャホニャ」


「分かりましたか?監督。え?汗のニオイ?

 あわわわ。すみません。私としたことが、汗だくビショビショだったことを、つい忘れていました。汗臭い女子なんて、お嫌いですよね。でもここは、我慢してください。インターハイが掛かっています。

 では一度、部員たちが集まる前に練習してみましょう。


 私たちが練習をしているとぉぉ、

 監督が手招きで私を呼ぶぅぅ、

 そして走って近寄ってきた私に耳元でそっとささやくように、はい!」


「はぁぁ。やだぁ~」


「監督!息を吹きかけないでください。私は耳が弱いんですから。もう一度やりますよ。頑張って名監督を演じてください。

 私たちが練習をしているとぉ、監督が手招きで私を呼ぶぅ、そして走って近寄ってきた私に耳元でそっとささやくように、はい!」


「はぁぁぁ。ぉわおぁ~」


「だーかーらー!!監督!遊んでませんか?私は本気なんですからね!もー!

 まずいです、部員たちが集まってきました。これから練習が始まりますが、監督は余計なことは言わないで、それっぽく頷きながら見ていていただければいいですからね。わかりましたか?お願いしますよ!」


大声「全員集合ー!!」


「えーこちらは、本日から私たち女バスの監督に就任されました先生です。

 えー監督は、歴代えー、強豪チームをえー、渡り歩かれてえー、この度えー、このチームをインターハイへえー、導いていただくためえー、お越しいただきました。

 監督から何か一言・・・あっ、いいですか?それよりも?練習を?開始しろ?

はい!!わかりました。それじゃあ、練習開始ー!みんな声出していくよー!」


「グルガングン魂ーーオー!」


(体育館でバッシュが床にこすれる音 キュッキュッ)

(バスケットボールのドリブル音 ダムダム)

「はい!監督。フムフム。ハイハイ。わかりました!

 有紀はリバウンド取る前から周りをよく見て!涼子はピック&ロールのタイミングが少しずれてるから、半テンポ早く動いて。練習続けて!」


(キュッキュッ ダムダム)

「はい!監督。フムフム。ハイハイ。わかりました!

 美広と由香はフレックスオフェンスのダウンスクリーンかけたら広がって!佐奈はシザースカットをもっと丁寧にやって。それじゃあファール取られるよ!練習続けて!」


(キュッキュッ ダムダム)

「はい!監督。フムフム。ハイハイ」

小声「って、監督!私の事、呼びすぎです!ただでさえ、直接指導しないから怪しいのに、こんなに私のことを呼んでたらばれちゃいますよ!ホドホドにしてください!」

「加奈子はもう少し後ろにポジション取って!亜美は、えーっとどうしよう、ん?じゃなかった。亜美はもっと声出して!練習続けて!」


(キュッキュッ ダムダム)


「今日の練習終わりよー。全員集合ー!!」

「監督に、礼。ありがとうございましたー。解散。しっかり水分補給してねー。一年生はビブスの洗濯とコート清掃よろしくね。戸締りは私がやっとくから」


小声「監督。この後ちょっといいですか?みんなが帰ったら、部室に来てください」


(部室の扉をノックする音 コンコン)

「おわぁあわぁ!はいはい。どうぞお入り下さい。ちょうど制服に着替え終わったところにノックされたから驚いてしまいました。ん?どうしたんですか?あたりを見渡して。そんなにこの部室がめずらしいですか?あっ。もしかして、部員のみんながここでシャワー浴びたり着替えをしてたから、ちょっとドキドキしてるとか?

 そんなわけないですよね、あなたは監督であり、先生なんですから。

 おっと、ここへお呼びしたのはですね、監督。その、あの、大変申し上げにくいんですが、監督のその外見を何とかしていただきたくて、お呼びしました。

 始めにも言いましたが、そのゴムが伸びたヨレヨレのジャージをやめて、もっとこうピシャとしていただけますか?

 え?この服しかない?それは困りましたね。ヨシ!では今から買いに行きましょう。近くのデパートに紳士服売り場がありますから。ねっ。はい決まり。行きますよ。」


(環境音 デパートの案内アナウンス)

「監督。着きましたね。デパート。まずは、エレベーターっと。あっちですね。

 あれ?あそこのテナント、美容室になったんだ。私、今は黒髪のショートですけど、あんなポスターのモデルさんみたいに、流行りの『お星さまカット』なんてのをしてみたいんですよね。あっいや!だめだ、インターハイが終わるまでは」


「星刈りしません 勝つまでは」


「さっ。エレベーターが来ました。乗りましょう。紳士服売り場は7階ですね。ポチッと。今日はまたお客さんが多いですね。ずんずん人が乗ってきますよ。あっあっ隅へ追いやられる。あっあっ。」


(エレベーターの扉が閉まって動く音 ブーン)

耳元小声「一瞬でエレベータの中がパンパンになってしまいましたね。息をするのも大変です。すみません監督。私と体が密着してしまって。練習終わったばかりだから、私の体、熱くないですか?少しの間ですから、我慢してくださいね。

 私、バスケ部のキャプテンをしてるのに、小柄だから、大勢の人に圧迫されると、すぐに体が埋まってしまうんですよね。できましたら、埋まらないようにしっかりと抱えていてくださいね。

 んぅんっ、それにしてもここのデパートは古いから、エレベーターもよく揺れますね。んぅんっ。んぅんっ。

 とこで監督は彼女さんとかいらっしゃるんですか?あ、いや、その、一応聞いとこうと思って。はい。答えたくなければ別にいいんですよ。はい。

 わ、私ですか?私はほら、女子中から女子高へ移動したから、男性の方とはその、さっぱりで、あまり免疫が無いというか。今も、こうして、、


監督と体が密着している今も、、、

ドキドキが止まらないといいますか、、、

この揺れで監督と擦れあって、、、んぅっ、

体がドンドン熱くなってきて、、、あぅっ、


やだ、私、何言ってるんだろ。あっ。7階着きましたね。」


「降りまーす。降りまーす。んぅ。んぅ。んぅ。」


「ふぅ。なんとか降りられましたね。そういえば屋上でイベントをやってるって書いてあったから、そこのお客さんだったのかもしれませんね。さて、監督はどのようなお洋服が好みなんですか?

 え?お洋服に興味がないから着られればいい?あら。では、僭越せんえつではございますが私が、選ばせていただきますよ。男性のお洋服を選ぶなんて初めてだからドキドキします。

 バッチリスーツで決めるのもいいですけれど、ここは運動部監督らしく、ジャージで行きましょう。

 色はどうしましょうか。紫か緑か茶か・・・


黄色なんてどうですか?ほら、なんだか強そうですよ、中国拳法の使い手みたいで。

アチョー!ハイヤー!フォー!

きゃはははは。きゃはっはは。


じゃー今度は赤色なんてどうですか?熱血指導マンみたいですね。

ぐおぉらぁー!おまんらぁー!校庭100周じゃー!!!

きゃはははは。きゃはっはは。ぎゃはっははは。


それじゃー次は青色。キザなホスト監督。

お嬢さん、転ばれてしまいましたね。お手をお貸ししましょうか?

びゃゃはははは。きゃはっはは。ぎゃはっははは。


 あっ、すみません。取り乱してしまいました。つい、監督と一緒にいて楽しくなってしまいまして。え?無難な黒色にする?あら、そちらもとてもお似合いです」


小声「中身が良いと、何を着ても似合うんだなー」


「あいや。何でもありません。独り言です。

 では明日はそれを着てきてくださいね。一泊二日の合宿が始まりますからね。

 え?聞いてない?いやいや。大人が誰もいないなので、来ていただかないと困ります。管理人もいない山小屋で、か弱き女子高生だけで寝泊まりするなんて危険です。大丈夫ですよ。今回の合宿は基礎体力をつけるためだけの合宿なので、バスケットの専門知識はいりません。そういうことで、よろしくお願いしますね。あーそれから、念のために携帯の番号を交換しておきましょう。スマホ貸してください。ピポパっと。それでは失礼します」

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