簡易シェルター。
ナイフとノミはボロ服の腰紐に挿して石斧は右手に持つ。他にも使えそうな石材は左手に持ったり脇に挟んだりして運ぶ。
ほぼゼロから始まるサバイバルに於いて、石材の存在は非常に重要だ。
まぁ、そもそもなんで人里の中でサバイバルしてんのかって話だけど。マジで意味わからん。
建築予定地の資材置き場に戻った俺は、持って来た石材をそこに置いた。持ち続けるのは石斧とナイフのみ。ナイフは腰紐に挿し、石斧は右手に持って森に向かう。
森に向かう途中、足元でブチッと音がする。藁編みサンダルの鼻緒が切れた。それだけなら修理も出来ただろうが、よく見ると右も左も所々が切れて壊れてる。
俺は仕方無く、そのまま裸足で森に入る。壊れたサンダルはその場で脱ぎ捨てる。後で回収するつもりだ。今は壊れた資材でも無駄に出来ん。焚き付けにでも使おうか。
「クソが、仕事が増えたじゃねぇか」
裸足で歩く森は良くない。実に良くない。靴を作る必要が発生した。
尖った石や折れた木の枝、場合によっては毒虫や毒草などに触れる危険も有る。
世の中には「触っただけで生きる事を諦める程の激痛が数年間持続する毒草」もある。実際に用を足した後にその草で尻を拭いてしまった男が、あまりの激痛に耐えられず自分の頭を銃で撃ち抜いてしまった事件とかもあるそうだ。事実かどうかは知らないが。
だがたった二日で五歳児が、合計で四時間程しか集められなかった資材などただが知れてる。今は裸足でも森に行かねばならない。
ある程度の資材が集まったら、シェルター作って、焚き火して、芋を焼いて食事にして、今日はもうそれで良いだろう。靴は明日作ろう。
「シェルター作った後は、もっとちゃんとした仮拠点を作って、その次に本拠点か……?」
流石に簡易シェルターで一週間とか過ごしたくない。良くて三日前後だろう。あくまでシェルターはその場しのぎだ。
仮拠点もその場しのぎに違い無いが、簡易シェルターよりはマシだろう。うーん、やる事多いな。
森に入った俺は、手近な所に生えている木に寄った。今までは地面に落ちてる枝や倒木から良いサイズ感の物を選んで集めてた。つまり良い物が見つかるまで探さないとダメだった。
しかし、今は石斧がある。細い木なら切り倒せるのだ。ほぼそのままを加工せずに建材とするなら生木でも構わないのだし。
適当な木を切り倒して使って良いとなれば、運良く地面に落ちてる物を探さずとも良い。切り倒すのに必要な時間はあるが、運ゲーで良い物が見つかるまで探すよりは効率的だ。
俺は森に入ってすぐの浅い場所で見付けた、比較的真っ直ぐ空へと伸びる細い木に向かって石斧を叩き付け始めた。木の太さは大人の腕くらいで、高さは3メートルくらいか?
針葉樹であり、多分スギの近縁だ。寒い地方だから針葉樹が多いのだろうか。楓っぽい木も見付けたが、広葉樹はそれくらいか。
「スギがあって良かった……」
面倒なのでこの木をスギと呼ぶ。樹皮が繊維質で似てるし、針葉樹だし。仮に違う種類だったとしてもスギと呼ぶ。此処は異世界だしな。
六分ほど掛けて木を切り倒したら、頑張って森の外まで引き摺って行く。浅い場所なので前より多少は楽だが、それでも五歳児だから大変な作業だ。
そんな作業を繰り返し、ツタなども時折集める。
本当は時間いっぱい使いたいが、今日の寝床すら確保出来て無いからある程度の収集で終わらせる。最後に、葉の大きなフキっぽい植物を少し回収した。川の近くに生えてた。
何気にコレ、現在の最重要物資である。数日でその地位を失うのだが、それはまぁ良いだろう。
寒い地域に生えてる葉の広い植物は結構貴重だ。針葉樹が多いからな。と言うかフキって確か食えなかったっけ? いや、俺の知ってるフキじゃないかもだから止めとくか。毒性のある種も確かあったはずだし。
「さぁて、寝床を作るか」
作るのは簡易シェルター。サバイバル系ゲームでもお馴染みのアレだ。細長い二等辺三角形を縦に割って横に寝かせた様な形の立体物だ。
簡素な見た目の通りに作るのも簡単。
まず資材から2メートル前後の棒を六本ほど用意する。選んだ六本は今日切り倒したスギの若木で、枝は既に石斧で払ってある。
若木から石斧とナイフを駆使して樹皮を剥ぐ。スギの樹皮は使い道が多い。
その後、一本選んで真ん中で折る。折るのが難しかったら石斧を叩き付けて切れ込みを入れて折る。
折ったら、二本になったその棒の端を、縦に割いたツタで結ぶ。そうしたら2メートルくらいの棒を一本追加で出して、これは折らずにそのまま。
結んだ木の棒を開いて地面に縦、その
三脚の短い二本の棒を「足」と、長い一本を「背骨」と呼ぶ。公的にそうって訳じゃなく、俺が勝手に呼んでるだけ。
骨組みの基礎が出来たら、用意した残りの四本を持ってくる。四本を二本ずつ背骨の両側に並べて揃えたら、地面と背骨の中間くらいを意識して、
次に、剥いで置いたスギの樹皮を骨組みへ立て掛ける様に被せていく。隙間無くスギの樹皮を被せたら、背骨の上にも樹皮を被せる。コツとしては下段から順に被せる事か。適当にやると水の侵入を防げなくなるから。
「これで終わりにしても良いんだが……」
最後に、樹皮の上に土をぶっ掛けていく。足側を入口として、あとは全部山の中に埋もれる様にして土を被せる。
「よし、簡易シェルター完成。雨風はこれで凌げる」
本当は、入口に簡単な堀を用意して雨避けした方が良いんだが、後で良いだろ。流石に今すぐ降り出したりはしないだろうし。
体が大人だったら、この簡易シェルターを飛ばして一気に仮拠点作りまで行けたかも知れないが、まぁ仕方無い。
「さーてさて、日も暮れてきたし、夕食にするかね。いや、その前にカップ作りと火起こしか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます