万事屋弾丸無双。〜異世界だろうとなんでも出来る。女神の依頼でダンジョン討伐〜
ももるる。【樹法の勇者は煽り厨。】書籍化
締結。
「では、契約は完了ですね」
互いのサインをもって、ここに一つの契約が締結した。
収入に見合わない寂れた雑居ビルのワンフロアで、部屋に染み付いたコーヒーの臭いを嗅ぎながら、俺は目の前にある書類へ視線を落とした。
それはお互いの要求を一つの約束事へと落とし込んだ契約書。
多くの金銭を得るために物も手段も選ばずに仕事を続けた万事屋たる俺の元へ尋ねて来た目の前の相手────。
「俺、
「私、女神ティエリアーナは射沼虎太郎の妹、筋ジストロフィーを
異界の女神、ティエリアーナ。
表の仕事も裏の仕事も、手当り次第に
最初は女神を自称するヤベェ奴が異世界
本当に些細な事なら「手品か?」と疑う余地もあったのだが、「この部屋の外、全ての時間を止めた」と言われて、窓の外を見たら翼を広げた鳩が空中で静止していたのだから、俺に抵抗する術など無かった。
ただ、正確には世界の時間を止めたと言うより、事務所の中の時間を加速させて相対的に外が止まって見える様になってるらしいが、どちらにせよ無力な凡人には抗えない力である事は
結果、目の前でボロソファに座る金髪巨乳のネーチャンが本物の神だと理解させられ、そして妹の病気を何とかしてくれると言うのだから俺に否やは無い。
妹の治療費をいくら稼いでも、それはもう延命でしか無かった。
現代に
全身の筋肉が衰えていき、ゆっくりと死に向かう恐ろしい病気だ。
発症パターンによって症状の
ただ歩く、何かを手に持つ、呼吸をする。そんな当たり前の事すら出来なくなってゆっくりと死んでいく。それがどれほど恐ろしい事なのか、きっと
俺の妹、エナは、大変不幸な事に症状が重い方の筋ジストロフィーを患っている。
現代医学で根治が不可能な病気を治そうと思えば、金なんていくらあっても足りない。本当になんの比喩でも無く、金が足りないのだ。
裏の仕事にも手を出して莫大な金を稼いだところで、延命では無く完全なる治療──、つまり新しい医療技術や薬の開発が目的となれば、月に数千万単位の金が当たり前に消え去っていく。
タワマンが買えるほどに稼いでる俺でも、こんな雑居ビルで仕事をするのが精一杯なほどに金が足りない。
さりとて、諦める訳にもいかない。
難病を患ったエナの存在を疎んで消えた
「持って行く能力は、本当にコレでよろしいのですか?」
ふと、俺と同じように書類へと視線を落としていたティエリアーナが言った。
事務所の応接用ローテーブルに乗った書類には、俺とティエリアーナの要望が記されている。
「ああ、大丈夫だ。だから契約通り、残ったリソースはエナに使ってくれ」
この女神は、物語で良くある「何故か詳しく事情を教えてくれないのにクソ重い使命を課してくる味方ヅラしてるだけの実質敵」っぽい事はせず、契約を結ぶにあたってかなり詳しい事情を全部話してくれた。
ティエリアーナが司る世界は、アニメでもお馴染みな「魔法あり、魔物あり」でローテクノロジーな異世界だと言う。
そこに最近──、と言っても女神視点での『最近』であり、人間からすると数十世紀単位の事であるが、──他の異世界から地味に面倒な侵攻を受けてるそうだ。
神が世界を構成するには
世界を構成するのにリソースを使ってると言う事は、その世界にある土も水も大気も、何もかもがティエリアーナのリソースである。
世界の中で草木を燃やしても、それは世界の中でリソースが循環してるだけなので問題は無い。燃えた物は蒸発して別の物質になるだけだから。
しかし、異界の超生物に食われると、それがどんな些細な物質であっても問題になる。
例え、その辺にゴロゴロしてる石でも、荒廃した土地の砂でも、生物を拒絶する毒沼や凍土の氷であろうとも、それが奪われてしまえばティエリアーナの世界からその分のリソースが失われる事になる。
「
「ええ、お任せ下さい」
そんな異界からの侵略者が、
ティエリアーナの世界に住む民はソレの事を生物だと認識していないので、単純に
だからこそ人はダンジョンに挑み、そしてダンジョンの中で死に、ダンジョンにリソースを奪われてしまう。
要は、ダンジョンからの持ち出しと、ダンジョンへ攻め入る人間とで収支がマイナスだとティエリアーナが困るのだ。
人すらもリソースの塊であり、人がダンジョンで死んで食われれば、その装備品はアイテムを含むリソース全てがロストする。
これを防ぐために、俺はティエリアーナに雇われた。
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