第25話 邪悪コンビ
俺と千陽は、隣同士仲良く歩く、怜人と悠姫ちゃんの様子を観察していた。
「まさか、悠姫ちゃんのネット民が怜人だったとは……」
「なんだか、世間って広いようで狭いね」
怜人に事情を問い詰めたところ、悠姫ちゃんとはツ○ッターを通じて出会ったとのこと。
最初は、怜人が仕事関係で使用しているアカウントで、主にSNSの使い方などに関する役立つ使用方法などを発信していたらしい。
そこで、たまたまツ○ッターのス○ース機能で訪れてくれたのが悠姫ちゃんだったとのこと。
元々、怜人のファンだったらしく、DMで相談を受けているうちに意気投合。
悠姫ちゃんがこちらへやってくるタイミングで、怜人の方から良かったら会いませんかと声を掛けたという。
悠姫ちゃんが千陽の妹さんであることを説明すると、怜人はすげぇ驚いてた。
顔見知りだということが分かり、ひとまず千陽は一安心したというわけである。
その後、今後は逆に悠姫ちゃんのテンションが上がってしまい、良かったら四人で遊びませんかという話になり、今に至るというわけだ。
怜人と悠姫ちゃんは、俺たちのことなどゆつ知らずといった様子で、まるで初対面ではないように仲睦まじい雰囲気で、ぐんぐんと歩いて行ってしまう。
「俺たちの心配は杞憂に終わっちまったな」
「うん……でもまさか、悠姫のお相手が谷町君だとは思ってもみなかったよ」
「俺も、怜人が仕事関係でそういう情報発信してるのは知ってたけど、まさかこんなことになってるとは」
「ちなみに谷町君ってさ、今彼女さんとかいないの?」
「あぁ。この前上本の結婚報告受けた時に『俺も彼女欲しい』って嘆いてたから、多分いないと思うよ」
「ということは、悠姫のことを谷町君は狙ってるってことなのかな?」
「どうだろう、そこまでは分からないけど、少なくとも怜人の性格上、ちゃんとそういう関係になるまで順序はちゃんと踏む奴だから問題ないと思うぞ?」
「まあ、谷町君は元気の親友なわけだし、よく話も聞いてるから、私も一応信用はしてるし……」
千陽としては、妹が俺の親友に恋心を抱かれているのかどうかが気になるらしい。
まあ、千陽からしたら複雑な心境だよな。
妹が兄のように信頼している相手が、俺の高校時代からの親友だったのだから。
そんなことを話しながら歩いているうちに、到着したのは海辺近くにあるアミューズメント施設。
前を歩く怜人と悠姫ちゃんは、そのままこの施設の象徴ともいえる観覧車の方へと向かって行く。
「観覧車に乗るのか?」
俺が怜人に尋ねると、こちらを振り向いてコクリと頷く。
「あぁ、せっかくだし、高いところから都会の街を堪能してもらおうと思って」
なるほど、確かに観覧車に乗れば、街の景色を一望できるのは間違いない。
その時、悠姫ちゃんがコショコショと怜人に耳打ちする。
お互いに頷き合うと、悪い笑みを浮かべながら怜人が言い放った。
「せっかくだし、2対2で別れて乗ろう」
「えっ……マジ?」
怜人の提案に、俺は思わず頬を引きつらせてしまう。
「いいだろ? お前らも二人きりの方が、のびのび出来るだろうし。なっ、悠姫ちゃん」
「はい、私もその方がいいと思います! お姉ちゃんたちに楽しんでもらいたいですから」
悠姫ちゃんもノリノリといった様子で言ってくる。
「そう言ってるけど、どうする、千陽?」
俺が恐る恐る千陽の方を見ると、千陽は硬直していた。
目の前に手を振ってみるものの、びくとも反応しない。
も、もしかして、気絶してる⁉
「ほら、通路の途中で立ち止まってたら、他の客に迷惑になっちまう。とっとと乗り場に向かうぞ」
「はーい」
「おい、ちょっと待てって!」
俺の制止の声を聞かずして、怜人と悠姫ちゃんは乗り場へと向かって行ってしまう。
取り残されてしまい、俺は恐る恐る千陽の方を見つめた。
「ち、千陽……大丈夫か?」
俺が尋ねると、ようやく千陽が我に返った様子でピクっと身体を震わせる。
そして、今にも泣きだしそうな顔を浮かべて見据えてきた。
「助けて元気……私高所恐怖症なの」
なんとなく察してはいたが、やっぱり千陽は高いところが苦手のようだ。
前にデートでソラマチへ行ったとき、千陽が断固としてタワーに登ろうと提案してこなかったことをふと思い出す。
そして、俺もまた右に同じ。
「ごめん千陽」
だから、俺も千陽に謝罪の言葉を口にすることしか出来ない。
「俺も実は……高いところマジで無理」
「えっ、元気も?」
「うん……特に観覧車のゴンドラとか普通に揺れるし、安全性低いしマジで無理」
「ど、どどどどどうする!?」
「落ち着いて、とりあえず、俺たちはこの待機列から離脱して――」
俺がそう言って千陽を宥めている時だった、不意にガシっと俺と千陽の腕が誰かに寄って掴まれる。
顔を向ければ、そこには、乗り場へ向かったはずの怜人と悠姫ちゃんが立っていて……
「ほらお姉ちゃん、そんなところで突っ立ってないで行くよ」
「元気、かっこいい所見せてやれ」
そう言って、俺たちをからかうように、邪悪な笑みを浮かべる二人。
この野郎、俺と千陽が高所恐怖症だってことを知って面白がってやがるな。
「いや……俺たちは下で待ってるから、二人で乗ってきていいよ」
「何言ってるんですか、怜人さんも乗らないと損ですよ!」
「だとよ、悠姫ちゃんもそう言ってることだし、せっかくだし乗ろうぜ。まっ、ゴンドラは別なんだけどな」
こいつら……間違いなく俺達を弄んでやがる!
なんという悪魔だ!
「ほら、後ろからお客さん来ちゃったよ! 早く、早く」
「もう乗るしかねぇよな?」
「あっ、悠姫……ちょっと待っ」
「おい怜人、止めっ」
結局俺と千陽は、言葉を遮られるようにして、強い力で手を引かれて、観覧車乗り場まで強制的に連れていかれてしまうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。