タイトルマッチ:挑戦者・涼谷静香

ドガァッ!

『あーっと!挑戦者のフックがチャンピオンに炸裂!これは厳しい!』

 天道寺朱夏の頬に会心の右フックを打ち込み、アタシは思わずニヤリと笑った。先のラウンドはひどく打たれたが、このラウンドでは逆にアタシがチャンピオンを圧倒していた。

 チャンピオン――天道寺朱夏が、最強が、ヨロヨロと後ずさる。……アタシのパンチを浴びて。

 勝てる!アタシは確信する。サキとともに頑張ってきた日々は無駄ではなかった!

「いっけぇ!シズカ!一気に決めちゃえ!」

 サキが大声でアドバイスを送ってくる。アタシは頷くと、一気に距離を詰め、トドメの一撃を放つ!ふらついているチャンピオンは避けるそぶりも、ガードする様子もない。

バッコォッ!

「……ぶはぁ……ッ!」

ドターン!

 ……アタシの顔面にチャンピオンのカウンターが炸裂した。目の中で星が飛び、アタシは仰向けに倒れる。

「……ダ、ダウン!……1!……2……!」

 ……くそッ!負けてたまるか!アタシは肘を着いて上半身を起こそうとする……が、視界が揺れ、上手く起き上がれない。

『挑戦者、これは立てるかぁ!?』

 五月蝿い……!立てる!立てるに決まっている!……アタシの想いと裏腹に、身体は言うことを聞いてくれない。

「シズカァーッ!」

 サキの声が聞こえる。たとえどんなに苦しいときでも、彼女の声があれば立ち上がれた。……今は、それでもなお立ち上がれない。

「……9!……10!ノックアウト!」

カンカンカンカーン!

 ゴングが鳴る。アタシの敗北を告げるゴングが。

「シズカッ!?シズカッ、しっかりして!」

 サキが叫ぶ声が聞こえてくる。彼女がリングに上がり、アタシのところに駆け寄って来ているようだ。

 気が緩んだのか、アタシの意識が遠ざかる。アタシが最後に見たのは、敗者を嘲笑うようにこちらを見て笑みを浮かべている王者だった。

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