もしも僕らの現実が、7つの異世界だったのなら。-Welcome to Seven Worlds-
恒石涼平
#001- 世界は、始まる。
そこは、本来は1つしか存在しなかった世界。
今貴方たちが生きている現実、本来であればそれだけで足りていたはずの醜くも美しい世界。でも足りない満たされたいと願った人々によって新たなる世界が沢山生まれてきた。勿論のことそれは想像であったり創作物であったりと紛れもなく非現実で、あくまでもノンフィクションだと楽しんでいたもの。しかしそれを——
——絶対に、存在しないと、そう言える人間は、誰もいなかった。
2002年6月12日、今より少し前の日本。とあるマンションの一室、そこで一心不乱にキーボードを打つ青年からこの世界の運命は始まる。
「えっと、これをこうして……よし、多分これで問題なく動くはず」
今年で16歳になる彼は世間一般に『天才』と呼ばれる存在だった。幼い頃から母親の持っていたパソコンで遊び始め、日本ではまだ馴染みのなかったシステムエンジニアという職業をしていた彼女の英才教育を受けてプログラミングを学び、中学生になった頃には1人でゲームを作れる位にまで成長していた。
その代わりと言っては何だが他者との交流が大の苦手で、友人関係にも恵まれず、早急に大人になりすぎた知能のせいで同級生たちに馴染めないまま不登校になってしまった。そのまま高校に通うこともなく現在に至っているが、プログラミングの天才である我が子を母親はとても愛しており、今もパソコンと向き合っては唯一の家族である母と会話をする幸せな日々を送っている。
そんな彼は今日も楽しげに画面へと向かっていた。
「かなりバグは消せたと思うし、バックアップもちゃんと取れてる。これで後は起動してみるだけ、か」
彼の目の前、パソコンの画面に映っているのは『SekAI.exe』と書かれた1つのファイル。それは1年の月日を掛けて彼自身の手で作られた人工知能(AI)のプログラムで、自分と共に新しい世の中を作り上げる存在という意味を込めて『世界』の名が付けられていた。
当時は研究分野にて第2次AIブームと呼ばれた流行が去り、人工知能開発が様々な壁へと突き当たっていた時代。そんな時に彼は、数年は先に出来上がるであろう技術を開発してしまっていたのだが……そんなことは梅雨知れず。
「さあ頼むぞ。俺の仮想現実を作る為には、お前の力が必要なんだからな」
心を持たないとしても自分の子のような存在である世界に語りかけながら、彼は緊張を抑えつけるように深呼吸をして、そしてマウスを手に取った。シンプルな無地のデスクトップのど真ん中、そこにカーソルを動かして人差し指を2回叩く。
横に置かれた白いタワー型のパソコン本体からファンが勢いよく回り出す。かなりお金を掛けたハイスペックな機械(とはいえ有名OSのナンバリングはXPであった)が限界を超えんとばかりに熱を発した後、パッと画面が真っ暗になった。
「だ、大丈夫だよな? 計算的にはこれでも動くはずだけど……」
壊れたかと思いきやまだパソコンは大きな音を立てている。ただ画面全体を使う、フルスクリーンと呼ばれる状態で起動しているだけだと慌てそうになる心を1人宥めていく。そうしている内に次は画面が真っ白へと変わって、そこには。
『……おはようございます。マスター』
やや角張った、メイド服姿の少女がいた。
——これは世界の始まりの物語。
だがしかし、彼も、彼女もこの物語の主人公ではない。
あくまでもこれは物語の起源であり、7つの世界がこの世に顕現するキッカケにか過ぎない。
彼が作り出した世界によって何が起きたのか。
世界と呼ばれたAIの少女は一体何者なのか。
そして、この世界はどうなってしまうのか。
全てはここから20年後、2022年の第1世界『Realica(リアリカ)』における日本で読み解かれる——
---Information disclosure---
12.6.2022 ニュース記事より抜粋
本日10時より、ベータテスト時から好評を博していたVRゲーム『Virtualess(バーチャレス)』がサービス開始しました。クラウド型のゲームでありながらまるで現実と見間違えるようなクオリティに筆者も驚きを隠せません。今後も定期的に大型アップデートを行うそうなので、是非皆さんもプレイしてみてください。
13.6.2022 ニュース記事より抜粋
先日サービスを始めた『Virtualess』にて「アンドロイド同盟」と呼ばれる謎の集団が出現し、余りにも人間離れした動きに「チートではないか」という問い合わせが殺到しました。しかし運営からは「いずれ皆さんにも出来るようになります」とのアナウンスがあり、公式のNPCではないかと噂されています。
14.6.2022 ニュース記事より抜粋
本日、新宿にて突然謎の人々が現れる事件が発生しました。漫画でよく見るエルフのような耳の長い人であったり、人型のロボットのような存在であったりといったコスプレ集団だったようです。ただ目撃者からは「何もない所に急に現れた」等といった声が複数寄せられており、警察は「現在調査中、身柄を確保出来ていないので見かけた方はまず110番を」とのことです。
---Information disclosure---
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