いと麗しき......

雄蛾灯

第1話

「明~! いつまで寝てるの?休日だからって怠けてたらダメよ」

一階から母の声を聞き、むくりと体を起こす。窓を見ると晴れた青空から差す朝日が目に焼き付く。

「頭痛ぇし、超だりぃ」

朝日を浴びたせいか頭痛と気怠さが襲いかかった。それでも母親に怒られるよりはマシだと思い、自室から一階へと向かった。

「おはようござーす」

「おはよう」

俺の家庭は母と俺の母子家庭で、父は俺が幼い頃に家出したらしい。最初は母も居なくなったことに相当悲しんでいた。しかしある日スイッチが切り替わったのか、これっきり人が変わってしまった。昔は厳しくも優しかったが、今ではその厳しさはすっかり鳴りを潜めている。やはり父がいなくなったことが原因だろう。俺は前の母の方が好きだったけど。


「何ぼーっとしてるのよ、早く食べなさい。昨日食べてないんだから」

そういえば昨日、そのままベッドに突っ伏して寝てた気がした。それを再認識すると余計お腹が空いてきた。

「ごめんごめん、いただきます」

「はい、召し上がれ」

目の前にあるのは昨日のハンバーグの残りとピーマンの肉野菜炒め、豚汁と肉づくしだ。朝にしてはやや重く感じるが、俺としては肉ばっかりで嬉しかった。

「明、テレビのリモコン取って」

「あー、はいはい」

いつも母は食事をしながらテレビを観ている。観る番組は主にニュースだ。というかニュースしか観ない。

前にどうしてバラエティを観ないのかと聞いたら、何でかニュースを観ないと落ち着かないと言っていた。前まではバラエティを観ていたが、最近質が落ちてきているから観る気が起きないのかもしれない。

まぁ今更そんなことどうでもよく、食欲の方が勝っていた。そうして俺は椅子に座り、箸を掴んだ。


「そういえば、昨日あんなにうるさかったのによく起きてこなかったわね」

俺が豚汁を啜っていると母が突然聞いてきた。 

「何かあったの?」

「夜八時くらいかな、ここの周辺でパトカーと救急車が走ってたのよ」

「ほーん、また事件でも起こったんかね」

この町はやたらと事件が多いことで有名で、その内容は通り魔による殺人事件と言われている。その影響からかパトカーやら救急車のサイレンが二週間に一回は鳴っている。

それも確か、父が失踪してから起き始めた。だから俺も母も、父が通り魔なのではと冗談混じりに決めつけている。


そんな妄想をしてるうちに、重めの朝食を終えた。

「っぷ、もうお腹いっぱい……」

すると満腹感と休日だからか眠くなってきた。

「俺寝るわ」

「もう、しょうがないわね」

「「ごちそうさまでし……」」



「ニュース速報です。○○県△△市の空き家から男性のものと思われる遺体が発見されました。遺体は顔や胴体などがバラバラに分けられており、その傷み具合から死後十数年経ったもの見られています。遺体の身元は所持していた免許証から佐野晴矢さん四十三歳のものと見られています。警察は……」



それは父の名前だった。

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