可愛いくてあざとい後輩に俺は屈しない

秋月睡蓮

第1話 好きなタイプ

「ねぇ先輩?先輩の好きな女の子のタイプ教えてくれませんか?」


甘い声音で耳をくすぐる様に囁く後輩、冬嶋風花はいわゆる高嶺の花のような存在であるとされている。

キャラメル色の柔らかそうなボブカットによく通った鼻筋。小柄な身長とすらっとしたスタイル。ネイルを見ても行き届いたケアが見て取れるほど細部にまで拘っている。ほとんどの男はそんな質問をしてくる冬嶋風花をそれとなくタイプに上げるだろう。


「巨乳でめちゃくちゃ可愛い子がいいな」

「見た目じゃなくて中身でお願いしますよぉ」

「そんな質問をしない女」

「元も子もないじゃないですかぁ」


渋々真面目に考えて見ることにした。巨乳で可愛いければいいと思うんだがな。考え込んでいる俺の顔が面白いのかニコニコとこちらを見て楽しんでいた。


「そうだなぁ…キツめの性格が好みかもしれん」

「え…先輩ドMですか?キモ…あ!いえ何でもないです!」

「おい聞き逃さなかったからな」


時たまに見せる冬嶋の素顔が俺の防波堤になっている。俺達が通う賛恋淡高校には他校からも四人の姫がいると噂されているほど女子のレベルが高い。その四人の姫にはそれぞれ名字に四季が入ってるため四姫と呼ばれている。安直でダサいセンスだと思うがこの後輩冬嶋風花にはピッタリである。


「先輩何か失礼なこと考えてませんか?」

頬をぷくりと膨らませあざとく俺に上目遣いしてきた。

「フグに似てるなって思ってな。フグ美味いのかな」

「先輩…適当にはぐらかさないでくださいよ!」

ぷんすか怒っているこれも計算なのがわかってしまい磁石が反発するように心の距離を取ってしまう。


「はぁ…先輩ガード硬すぎませんか?」

「俺のハートはオリハルコン製だからな」

「よくわかりませんキモいですスミマセン」


早口で罵られた。素に戻った冬嶋は辛辣な言葉が多いがどうやら全員にそういう態度を取っているわけではないらしい。

冬嶋が俺に絡むようになってしばらくしてから友人Aことジャッカル小林から「う、うらやましすぎるぞ菅原青年!あんな可愛い後輩とイチャつくなど!」と物凄い形相で詰め寄られたときは焦った。このあざとさとルックスで四姫にまで登りつめたということもありかなりのファンがいるということを改めてそこで認識をした。好みのタイプではないからこそ、そのファン達から闇討ちをされないよう先輩と後輩の距離感を保とう。そう心に決めているのだが冬嶋は俺の間合いに入ろうとしてくる。


冬嶋とは映像作品研究部。通称『映研』の先輩後輩の関係だ。映研は映画やドラマ、アニメ、動画などを各々の部員が日替わりで紹介して部員同士で考察や感想を話し合ったり文字に起こしたりする。楽な部活だと思われるのを嫌った顧問の松浦先生はなるだけ部員を増やさないように部活の勧誘を固く禁じている。今いる部員が卒業したと同時に部を畳もうとしているという。しかし、どういう経緯で知ったのか冬嶋は松浦先生まで辿り着きあっさり入部をした。

活動は週に2回の自由参加で視聴覚室で行われている。実際とても楽な部活で居心地は良い。居心地は良いのだが今日は冬嶋と二人きりなので活動場所の視聴覚室が溜り場状態になってしまっている。


「で、先輩。ホントのとこはどういう女の子がタイプなんですか?」

「またその話か…スタイルとルックス抜きにして性格の話をすると…やっぱり自分を持ってる奴かな」

「そうですか…」

「真面目に答えたのにしらけるの恥ずかしくなるからやめろ」

俺の言葉は聞こえてなかったかのように何かを考え込んでいる様子の冬嶋の肩を後ろに回って軽く叩いてみた。びくりと肩を震わせ振り返ったところに俺の人差し指が冬嶋の頬をつついた。小顔ではあるもののしっかりとした肌のツヤと弾力を感じた。

「ひゃっ?!ちょ!何するんですかいきなり!」

勢いよく俺から距離を取る冬嶋。水をいきなり掛けられた猫の如く警戒心を全開にして睨んできた。

「悪い悪い!俺の存在がこの世から抹消されたのかと思ったからその確認をしたくて」

「社会的に抹消させてあげましょうか?」

ニコリと冷たい笑みを浮かべる冬嶋を見て背筋が凍った。

「すんませんでした!」

即土下座。これは降伏において最高のスパイスだと中学の時に親父が言っていた。その時の親父は付き合いで行ったというタイ古式マッサージ店の会員カードが母親に見つかり即土下座を行っていた。その当時はマッサージ店の会員カードくらいで何故土下座なんだと思っていたがある程度思春期も進めば理解ってしまうもの。俺も将来リンパの流れを良くしてほしいものだ。


「そこまで謝ってくれるなら許してあげます。…いえやっぱりダメです」

何かいい事でも思いついたのか目を細め口角を上げた冬嶋に付き合うことにした。

「如何なる罰も受けます故どうか御慈悲を」

「何なんですかそのキャラ…そうですね。許して欲しかったらこの後一緒に下校してください。それでチャラです」

「その様なことで良いのでしたら毎日でも」

役になりきってしまい余計なことを言ってしまった。そう思いすぐに撤回をしようと思ったが時既に遅しだった。

「じゃあこれから毎日一緒に帰って下さいね♪」


これは俺がこのあざと可愛い後輩に抗い続ける物語である。

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