姫様と堕天使の人間観察(仮)
梅雨日和
プロローグ
これは、まだ魔法が色濃く残った世界の、ある姫と堕天使の話。
この世界では、誰もが魔力量は違えど、魔力を持ち合わせており、魔法の属性がそれぞれ決まっていた。
そして生活に必要な花、火、水、電気はそれぞれ独立した国として認められ、そこから全ての国に必要な魔力や物資を供給していたのだった。
それ以外の魔法ももちろん存在しているが、その者たちは各地で独自に魔力を貯めたり、自営業を行っていた。
決められた属性の都に住み、働くことが、この世界の常識であった。これらは国同士の紛争や戦争を防ぐ為であると皆が理解していたので、反論するものはいなかった。
属性はおおよそ、血縁により決まるが、稀に違うものも現れる。
その場合は成人の後、己の判断で、
1中央都市へ移住する
(中央都市はそれぞれの国に存在し、様々な魔法を使う者達が住んでいる場所である)。
2魔法属性を中央都市で変換してもらう
3適正魔法の使える国へ移住する
4違う属性であることを隠しながら一生暮らす
以上4つのうちのいずれかを選択する必要がある。
しかし、国民に不満はなかった。
家族と別れてしまうとしても、すぐに会うことはできたし、「その国で認められている属性の魔法以外は使ってはいけない」という簡単なルールだったからだ。
また自分の魔力で、国や世界中の人々の生活を支えることができ、何不自由のない平和な生活を送れる保証があったので、誰も反対しなかった。
食糧は、各自でとった肉や魚と、花の都から送られる野菜を主食としていた。
この世界では、花や草木は魔法で育てるのが一般的であり、自然に生えた花や草木は一本もないと考えられていた。その為、野菜や草花を勝手に採取することは死刑に値するほどの大罪なのである。
しかし花の魔法は、火水電気以上に魔力と生まれ持った才能が必要であるため、後継者が少ない。花の魔法は0を1にする魔法。何もない土に、一つの芽生えを作ることができる。
他の魔法も元々は0を1にするものだった。しかし、最近は花以外の魔法は蓄えられるようになり、微量の魔力を流すだけで誰でも簡単に、生活の中で利用できるようになった。
それに対して花の魔法は蓄えることができない。花や草木は人間のように生きており、蓄えておいてもいずれ枯れてしまう。儚い魔法なのだ。
花の魔法の後継者がいなくなると、次の後継者が現れるまで、花の都はそれぞれの中央都市が分担して管理することになっていた。
なぜなら、中央都市の魔法具を使えば、一時的に少量ではあるが野菜と花を栽培できたからである。
だが、それも花の国王には到底及ばないほどの少量であった。
分かりやすい例でいうと、結婚式で花嫁の持つブーケが、バラ一本なんてこともザラにあったぐらいである。花も植物も野菜も希少になる為、値段も跳ね上がるのだ。
しかし、今年の春、花の国に新たな王が返り咲いたのだ。
いや、今回は王ではなく、異例の姫であった
――――――
ソフィア・フィレイン・フローレス。美しく長いピンクベージュの髪の毛、エメラルドのように輝く瞳、雪のような白い肌、桃色の唇。誰もが振り返ってしまうような美貌を持ちながらも、彼女は傲慢になることもなく暮らしていた。
訳あって18の歳になるまで、家族と引き離され、花の国の中央都市に幽閉されていた。そこでは、国が認めた者以外との面会は禁止され、孤独な生活を強いられていたのだ。
「あら……、私ったら寝てしまっていたのね……」
温かな春の温もりを感じながら、桜の木下で寝てしまっていたようだ。
私は今年で18になる。私はこの国で唯一の花魔法使いだ。18の誕生日に戴冠式を行う。世界中の人たちを歓迎する為にさまざまな準備をしているのだが、なかなかこれが骨の折れる作業なのだ。
「私ったらずっと室内にいたからか、体力がだいぶ減ってしまっているみたい……。幼い頃はどれだけ走り回っても大丈夫だったのに」
しみじみと昔のことを思い出していると、先ほどまで誰もいなかった丘の方から、見知らぬ声が聞こえて目を向ける――――
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