考え直して
「なるほど。だから、今日は明日香ちゃんがウチの教室に居ないわけか」
明日香と別れてから最初にやってきた登校日。
教室の窓際後方にて、俺の悪友──
俺が明日香と別れた件を話したからだ。
「でも知らなかったね」
「なにが?」
「明日香ちゃんが、ヒロトに『別れるから』って脅して都合よく扱ってたなんてさ」
「そういえば、言ってなかったな」
「ヒロトってそーゆうとこあるよな」
「そういうとこ?」
「誰にも相談せず一人で抱え込むとこ」
「まぁ、言われてみれば」
「明日香ちゃんが悪いのは大前提だけど、ヒロトもちょっとは周りを頼るとかしてもよかったんじゃない?」
高瀬は至極ごもっともな正論を突きつけてくる。
身内や友人、相談しようと思えば相談する機会はいくらでもあった。
だが俺は自分一人で抱え込み、今回の件で言えば我慢の限界がきて爆発してしまった。相談すれば解決した問題なのかはさておき、周囲の意見を取り入れてもよかったのかもしれない。
「まぁ、なんだ。せっかくフリーになったんだし、合コンでも開いてやるよ」
「ご、合コンって……俺、そういうの得意じゃないんだけど」
高瀬は白い歯を覗かせると、俺の肩をポンポンと叩いてくる。
無駄にイケメンだし、他校との繋がりも深い。
そんな高瀬の手に掛かれば合コンを開くことは朝飯前だろう。
俺の好みに合わせた女の子をキャスティングしてくれるかもしれない。
だが、生憎と俺は次の恋愛に踏み出すほど気分は変えられていないのだ。
しばらくはフリーでいいとすら考えている。
「そう? じゃあ、気が向いたら言えよ」
「うん。気が向いたらな」
高瀬は微笑を讃えると、ヒラヒラと手を宙に泳がせる。
そのまま自席へと戻っていった。
俺は頬杖をつきながら、黒板の上にある時計をぼんやりと眺める。
朝のHRまでまだ十分以上あるな。
と、そんなことを考えている時だった。
背後から視線を感じた。
振り返ると、教室の後ろ扉からひょっこりと顔を覗かせ、栗色の髪を靡かせた女子を発見する。
彼女──
即座に黒板に視線を戻す俺。
「(えっと……なんだ、あれ? 俺のこと見てたよな?)」
自分自身に問いかける。
俺は昨日、しっかりと明日香のことを振ったはずだ。
俺たちの交際関係には終止符が打たれている。
だから、うん、気のせいだろう。この教室にいる誰かに用があって、たまたま俺と目が合っただけ。そうに違いない。
念の為、もう一度振り返る。
「…………」
「……っ」
今度はバッチリと目が合った。
明日香に関しては頬を若干染めていた。
……どうした、ものだろう。
このまま無視を続けても良いが、それだと周囲の迷惑につながる。
少し悩んだ後、俺は席を立つと、明日香の元へと向かうことにした。
「なんか用?」
単刀直入に訊ねる。
明日香はキョロキョロと視線を泳がしながら。
「あ、え、えっとね……。えっと、……ヒロトはどう? あたしになんか用事ある?」
なんで聞き返してくるんだ……。
もし明日香に用事があったら、俺から明日香の元に行ってるだろ。
「特に用がないなら自分の教室に戻ってくれないかな。そんなとこでウロウロされると、クラスメイトの迷惑になるから」
「…………。あれから気持ちは変わってないの?」
明日香は捨てられた子猫みたいに儚げな瞳で、上目遣いを向けてくる。
昨日の今日で気持ちが変わるわけがない。
もっとも、俺はこれまでの積み重ねが爆発して、明日香と別れることを決めた。
単なる気まぐれで別れたわけではないのだ。
「気持ちは変わってない。というか、今後も変わらないよ」
「……あ、あのね、あたし、間違ってたって気がついたの。もう、ヒロトに嫌なことしない。ワガママ言ったりしないから。……だから」
「今、明日香が言ってることがワガママなんだけど」
「……っ」
「俺たち、もう別れたんだよ。そこの認識、ちゃんとしてくれないかな」
「ヒロト……」
明日香は瞳に動揺を走らせる。
俺の名前を呼ぶ声が、若干、震えていた。
「ウチの教室に来るな、なんて言わないけど、俺目当てで来るのはもうやめてほしい」
「ひ、ヒロトに会いたいよ」
「俺は会いたくない」
「……っ」
明日香は息を呑み込む。
踵を返すと、明日香が俺の右手を掴んで引き留めてきた。
「考え直してよ……ヒロト」
涙で潤んだ瞳で、訴えかけてくる。
だが俺は無情に明日香の手を振り払うと、特に何も言わずに自席に戻るのだった。
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結構ストックができたので、明日は2話更新します。
12時過ぎと20時過ぎに更新予定です。
お時間ありましたら、読みにきてください♪
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