たとえ翼がなくたって

アンドリウス

第1話 プロローグ

いつもと何も変わらない日常が過ぎていく。


  いや、何も起こす気がないのだから変わらないのは当たり前なんだけど。


  学校に行き、授業をいくつか受け、部活もやっていないので帰る支度をする、

 いつもと変わらない……はずだった。


「蒼介」


 帰りの支度をしている俺に不意に声がかかった。


「夏目?」


 突然の事で少し変な声になってしまう。

 声の主は幼なじみの天川夏目アマカワナツメだった。根暗な俺とは違って明るくてクラスの人気者だ。


「お願いあるんだけど……いい?」


 夏目からお願いとは珍しい、口にはださず心の中で思う。


「お願いって委員会の仕事とか?別に引き受けてもいいよ」


 断る理由もないのでお願い(多分委員会の仕事だろうなぁ)を引き受けようとしたが、伝えられたのは全く違う内容だった。


「いや仕事じゃなくってね……その、今日一緒に帰らない?」


「え、なんて?」


「だから一緒に帰らないかって行ったの!」

 

 意外だった。

 正直夏目とは高校に上がってからまともに関わっていない、小さい頃はよく遊んでいたがそれは小さい頃の話で大きくなるにつれ関わる回数も減ってしまったのだ。

 だから夏目からそんな提案をされるとは思わなかった訳で一瞬頭が真っ白になってしまった。


「いいよ、一緒に帰ろう。けど俺なんかでいいの?」


「何言ってんの、私が蒼介と帰りたいんだけど?」


「あ、あぁ。ならいいんだけど」


「?変な蒼介」


 少しドキっとしてしまった。こういう少し天然なところは昔と変わらないな。


「じゃあ最近できたカフェいこ!」


 そして連れられるままカフェに行くことになった。


「限定の抹茶フラペチーノください!蒼介は?」


 どうしよう、こんなおしゃれなカフェ初めてだ。何を注文すればいいんだ……?

 しかし、初めて来たなんて思われる訳には……!


「もしかして蒼介、こういうとこ初めて?」


 秒殺だった。


「……悪いか」


「別にそんなことないよ笑」


「いや笑いを我慢できてないぞ!」


「ははは!ごめんごめん。確かに蒼介来なさそうだもんね」


「悪口だろそれ〜」


「後ろにお客さんいるから早く決めて欲しいね、ばっきし言って」


「「すみませーん」」


 店員に怒られてしまった。


 カフェで喉を潤した後、ゲームセンターでクレーンゲームを楽しみ、夏目がどうしても見たいと言うので渋々恋愛映画も見ることに。

 そして見終わる頃にはすっかり日が暮れていた。


「あー楽しかった!蒼介は楽しかった?」


「あぁ楽しかったよ。久しぶり夏目と遊べて嬉しかった」


「え?」


「え、あ!べっ別にそういう意味じゃなくてだな……」


「……いいよ」


「え?」


「私はそういう意味でもいいよって言ったの」


「そっそういう意味ってそういう意味ってこと?」


 自分でも何を言ってるのか分からなかった


「そうだよ。私は今日そういう意味で……蒼介が好きだから誘ったの」


 理解が追いつかなかった。あのクラスでも人気がある夏目が幼なじみってだけで俺の事を……


「お、俺……」


「待って」


「その返事はまだ聞きたくない、今日は蒼介に好きって伝えるために誘っただけで返事を聞くためじゃないの」


 そう告げた彼女の顔は酷く寂しそうだった。


「じゃあいつ返事を聞いてくれるんだ」


「……次会う時がいいな」


「え、だってまた明日学校で……」


「うん、そうだね。でも次会う時がいいの」


「そっそうか分かったよ」


「ん、それじゃ私こっちの道だから」


「あぁそうだったな、また明日学校でな」


「うん」


「絶対返事聞かせるから」


「うん待ってる」


「それじゃあ」


 お互い帰路に歩き出す。

 俺は2、3歩歩いたところで振り返り夏目の後ろ姿を見つめていた。


 俺の視線に気づいたのか夏目も振り返り、薄暗闇でも分かるような満開の笑顔で


「蒼介!またね!」


 俺も精一杯の笑顔で手を振り返す。


 そして最後に


「……さようなら、蒼介」


 彼女は何かを呟いて歩き出した。


 彼女の姿が見えなくなるまで見届けた後、俺も家に帰る。

 正直告白されて、頭がパンクしそうだ。

 それでも夏目がときめくような返事を考えなければいけないなんてことを考えながら帰った。


 そして次の日、








 天川夏目は行方不明になった。

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