彼女と僕と他愛もない会話

そこらへんの社会人

第1話 コンビニアイス

「あち~」


 水色の棒アイスを食べながら、彼女は言った。

 端正で整った横顔から、夏の暑さにうんざりしているのが伝わってくる。

 

「なんでこんなアッツい日に補習なんかあるのかね~」


「ほんとにね」


 我々高校生にとって地獄以外の何物でもない土曜学習の日だった。

 うだるような暑さに耐えながら。コンビニの駐車場で僕らは買い食いをしていた。

 田舎の高校生は大体、親の車で帰るものである


 ――にしても、やっぱ可愛いよなあ・・・


 モデルと言われても遜色無いくらいに綺麗な横顔に、つい見惚れてしまう。

 彼女と僕は別に付き合っているわけではない。

 ただ、たまたま帰る時間が一緒だったから、たまたま二人ともアイスを買おうとしていたから、こうして一緒に居るだけである。


 断じて、僕は――


「つーかさ、今日の授業中、すっごい私の方見てたでしょ?」


 突然、彼女がこちらを振り向いた。

 金髪をサラリと揺らして、曇りなど一切ない瞳が、僕を刺す。


「・・・へ?」


「いやだから、今日さ、その・・・私の方、結構見てなかったかな・・・なんて」


「あー・・・見てたっけ・・・?」


「みて・・・ない?」


 僕のマヌケ面のおかげか、なぜか彼女の視線がばらついた。ちらちらと僕の方を見ている。棒アイスを持った手でスカートのすそをギュっと握っているのが、少しだけおかしかった。


「な、何がおかしいのよー」


「ああごめん、つい」


「ついで笑うなってのー、バカにしてんの?」


「ごめんごめんw」


 まさか、と心の中で思う。

 バカにする、なんてもんじゃない。

 彼女を見惚れて馬鹿になってしまってるのは間違いなく僕の方だ。


 長い一日の中で見れば、ほんの一瞬でしかないこの「彼女と過ごす時間」が、僕にとっての生きがいだ、なんて知ったら彼女は笑うだろうか。

 ――存外、「バカみたいだね」と笑い飛ばしてくれるかもしれない。彼女のそういうサッパリしているというか、思ったことをはっきり言うところが僕は好きだった。


「私さ、もうじき転校すんだよね」


「―――――――――――え?」


 授業中、僕が彼女のことを見ていた、という話はどこに行ったのか。

 そんな言葉を返そうと思ったのに、僕の頭にはもう、何も言葉が残っていなかった。

 ただ、驚嘆の声だけが漏れる。


「親の都合でさ、この夏が終わったら、転勤だってさ。やってらんないよね~この暑さ同様」


 彼女の美麗な横顔が、僕の視界に戻ってくる。

 棒アイスは照り付ける陽射しに涙を流しながら、彼女に咥えられていた。


 僕はそんな彼女の横顔を見ていることしかできない。


 端正で整った横顔から、少しだけ儚げな気配が漂っていた。

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