ARMS FACE
立花零
1.Battle Wolf
機体状況を詳細に示すモニターに囲まれる。両手に握った操縦桿を、それ自体が貼り付いているのではないかと思うほど強く握っていた。
〈現時刻をもって作戦を開始する。ウルフ、遅れるなよ〉
ヘルメットの無線から流れる指揮官の声に意識が先鋭化する。ディスプレイ横のトグルスイッチを操作し、武装の安全装置を解除した。
前に並んでいた機体が進む。遅れをとらないように動くと、歩行の振動はシート越しでも強烈に感じられた。
〈よう、ジャック〉
後ろの機体を操るベインスが話しかけてくる。
〈お前、一ヶ月前はサラリーマンだったんだってな〉
「......ああ。そうだ」
あまり触れてほしくなかった話だ。出世コースに乗っていたわけでもなく、日々与えられた業務をこなす。それが一ヶ月前のジャック・リンヴェルトだった。やりがいという言葉に釣られた結果、低賃金で訳のわからない残業を強いられる毎日。激務に体が慣れる。
慣れとは本当に恐ろしいものだ。昼間はエナジードリンク、夜は睡眠薬が必要になる。長期的に判断力を鈍らせるアルコールは使えない。
それが努力だったとは言わない。しかし、そんな毎日は、関わってすらいないプロジェクトの失敗責任を取らされるという形で終わりを迎えた。まさしく僥倖。
ベインスは過去を語ろうとしない。このAF運用試験には四人が参加しているが、過去が見えないのは彼だけだ。
〈二番機、ジャック・リンヴェルト。出撃せよ〉
「こちら二番試験機。ジャック、出ます」
空は灰色だった。幾年もの間放置されたカンヴァスの色。新たな色を加えることを許さないグレー。それをさらに濃くしてしまいそうな黒煙が、そこらじゅうから立ち上っていた。
国家という枠組みが消失した今、黒煙の正体は企業間の争いを示している。
ウラル山脈全域を本拠地とする〈オーバルジーン社〉。アルプスの川沿いにてAFを作る〈
〈全機作戦領域に入ったな。これより〈試験〉を開始する。諸君には四機で協力して施設破壊任務に当たってもらう。武装はすべて実弾仕様。同士討ちのないよう気を付けろ〉
冷ややかに告げられる指令。この作戦を生き残った者は、機動兵器AFを操る〈ウルフ〉として兵員派遣企業
〈作戦目標の施設はそこから三百メートル先だ。シムズガンナーのクラッキング部隊がレーダーシステムを
〈畜生、いきなり実戦かよ...〉
〈なあオペレータ、敵も実弾なんだろ〉
〈そうだ二番機。当たれば死ぬぞ〉
「訓練のみの俺たちに「斬り覚えさせる」ってことか」
〈その通りだ、四番機。シミュレータばかりではまともなウルフは作れん。命を危険にさらしてでも実践へ参加させる必要がある〉
〈クソっ、俺たちは消耗品かよ〉
〈それが遺言にならんことを祈っておけ。作戦開始!〉
四機は背部ブースターに点火し、
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