40.誓います、と宣言する幼馴染
期末テストの結果が出た。
貼り出された順位表を見て、俺は内心でガッツポーズをした。
「十五位……っ。ついに二十位以内に入ったぜ!」
試験中集中し切れていなかったから成績が下がってるかもと心配だったけれど、ちゃんと順位が上がっていて安心した。やはり勉強は裏切らないね。
「マサくん、結果はどうだった?」
俺の隣に並んだ千夏ちゃんが尋ねてきた。
「十五位だったよ。今回は調子よかったみたいでさ。初めて上位二十人の仲間入りを果たしたよ」
「すごいじゃないマサくん。でも、勝負は私の勝ちのようね」
「……え?」
もう一度順位表に目を向けた。
さっきは下から見ていて、千夏ちゃんの名前がなかった。上から見ていくと、千夏ちゃんの名前がすぐに見つかった。
「ご、五位!?」
千夏ちゃんはここへきて大幅に順位を上げていた。本気モードのポニテは伊達じゃなかったってことか。
勝ち誇った表情を浮かべる千夏ちゃん。可愛い……可愛くて強い!
「すごすぎる……。負けを認めるしかないようだな。千夏ちゃん、君の勝ちだ」
「勝ったら……なんでも、言うことを聞いてくれるのよね?」
「あ、ああ……。約束だからね」
千夏ちゃんは考える仕草をしてから、ぽっと頬を赤くした。
「また今度……、改めてお願いするわね」
「う、うん。よく考えておいてよ」
一体何をお願いするつもりなんだろう? 敗者となった俺はその時がくるまで待つだけである。
※ ※ ※
学校の一角。人気のないその場所で、大迫は千夏ちゃんに向かって土下座をしていた。
「千夏のことを信じなくてごめんなさい!」
「え、え?」
人気のない場所に呼び出されたかと思えば、いきなり土下座をしながらの謝罪である。
俺もいたから危険はないだろうとは思っていたかもしれないけれど、千夏ちゃんは困惑を隠し切れなかった。
「今度こそ心から謝る。許してくれとは言わない。ただ、僕は千夏を今後絶対信じると誓います!」
「ちょっ、やめてよ健太郎っ。もうわかったから土下座はやめてっ」
土下座はさすがに見栄えが悪いというか、何も知らない人がこの状況を見れば勘違いしかねない。
でも大迫は頭を上げただけで、立ち上がろうとはしなかった。
「僕自身への誓いでもあるから……。これからは絶対に千夏にひどいことをしない。本気で約束する」
言葉通り、大迫の目は本気だと表していた。
それにしても誓いか……。コウヘイくんがよく使うフレーズだ。早速影響を受けているらしい。
「わ、わかったわよ。ていうか急にどうしたのよ? 態度が全然違うじゃない」
「千夏に本当の意味で謝罪したかったんだ。それと、これまでの僕と決別するためだ。少しでもマシな男になるために、自分を変えるために必要なことだった」
真っ直ぐな目を向ける大迫に、千夏ちゃんは根負けしたみたいに息をついた。
「まさか健太郎がこんなにも変わるとはね。マサくんはどんな魔法を使ったのよ」
「大迫を変えたのは俺じゃない。コウヘイくんだ」
「え、誰よそれ?」
千夏ちゃんをますます困惑させてしまったようだ。少女漫画を読んでいることを知られるのは恥ずかしいけれど、今度千夏ちゃんにも読んでもらおう。コウヘイくんはいいぞ。
「健太郎、立って」
「え? でも……」
「いいから早く立ちなさい!」
「はいっ!」
大迫は直立不動になった。それを確認した千夏ちゃんはゆっくりと口を開く。
「こないだおばさんにも言ったけれど、私は二度と健太郎の面倒を見ようだなんて考えないわ。きっと……私のそういう気持ちもいけなかったんだろうし」
「ごめん……。千夏はずっと僕を気遣ってくれていたのに」
「いいから。……お互い悪いところがあった。それでいいじゃない」
千夏ちゃんが笑顔を見せる。その輝かんばかりの笑顔に、大迫は見惚れていた。
肘で大迫を突けば、慌てた様子で「ごめん」と繰り返す。
「そういう千夏の良いところを引き出してくれたのが佐野くんだったんだね。千夏の笑顔、すごく久しぶりに見た気がするよ」
今度は俺に向かって「ありがとう」と礼を言う大迫。俺のことはいいんだよ。
「どんなことがあっても、健太郎と私は幼馴染に変わりないわ。絶対に健太郎の不幸を望んだりなんかしないからね。だから、もう私を気にせずがんばりなさい」
「ありがとう千夏。ははっ、こんなにも良い女が近くにいたっていうのに……僕は自分が恥ずかしいよ」
そう言いながらも、大迫の表情は晴れやかなものだった。
幼馴染は幼馴染のまま、互いを尊重する関係となった。
幼馴染と呼べる存在がいない俺だけれど、きっと異性の関係とも違った特別なものなのだろうと感じた。
ほっとする千夏ちゃんを見て、俺はそう思ったのだ。
◇◇◇
将隆達三人が笑い合っている場面を、綾乃は目撃していた。
「そうですか……。みんな、仲直りできてしまうんですね」
綾乃は踵を返してその場を後にする。美しい黒髪をなびかせる姿を、誰も見てはいなかった。
「──やっぱり、将隆くんは私とは違うんですね」
彼女のその言葉も、表情も、見る者は誰もいなかった。
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