22.持つべきものは良き友達
俺は、やらかしてしまったかもしれない……。
強引に千夏ちゃんにキスをした。二度もしたから受け入れてもらえたと思っていたのだけど、あれから彼女との間に気まずい空気が流れている。
「……」
「……」
いっしょにいても無言の時間が流れてしまう。それは心地の良い静寂ではなく、ただただ気まずい沈黙でしかない。
わかっている。千夏ちゃんは恥ずかしがっているだけだ。
「千夏ちゃ……」
「っ!?」
少しでも距離を縮めようものなら、警戒心の強い猫のごとく飛びのかれてしまう。
正直傷ついた。けれど千夏ちゃんも申し訳なさそうな顔をするもんだから、その可愛さで許す俺だった。
たぶん嫌われたわけじゃない……と思う。もし本気で嫌われていたら、俺の傍に近寄ろうともしないだろうし。
でも、平静を保ったまま会話ができるほどの精神状態ではない。
千夏ちゃんって性的なことに初心そうだしね。だからこそ、そこんとこをゆっくり攻めるはずだったのに……。
でもさ、千夏ちゃんも悪いんだよ。俺と二人きりなのに警戒心がまるでないんだもんよ。俺は無害な幼馴染じゃないってのにな。
「……なんて、千夏ちゃんに責任押しつけるとか最低だな」
ため息が止まらない。今なら自分を責めてしまう千夏ちゃんの気持ちが少しわかる気がした。
「どしたんマサ? ため息ばっかついてんじゃん」
「俺知ってる。マリッジブルーってやつだろ。最近雨の日が多いからかったりぃって思ってんだよ」
「お前意味わかってねえじゃん。どうせテレビで聞いた単語を言っただけだろ。使うならちゃんと意味を覚えろよ」
俺の心配をしてくれたかと思いきや、次の瞬間には大笑いしていた。こいつら何がしたいんだよ……。
千夏ちゃんと恋人になってから、初めて友達グループとの昼食タイムである。この騒がしさと男臭さが懐かしいと感じるあたり、どれほど千夏ちゃんとの時間が濃密だったかわかるってもんだ。
今日は千夏ちゃんも友達と昼食をとっている。たまには互いの交友関係を尊重することも大切だろう。決して避けられたからではないと信じている。
「……ちょっと相談なんだけどさ」
俺一人では結論を出せないかもしれない。ここは友達に相談するのも手だ。まともなアドバイスをもらえなくても、話すことで整理できるかもしれないしな。
付き合ってることは秘密だ。まあ千夏ちゃんの名前を出さなければ大丈夫だろう。
「実は俺、彼女ができたんだよ」
「杉藤さんだろ?」
「杉藤さんだよな」
「杉藤さんなのは明白だ」
「なんでばれてんだ!?」
お前ら何? 全員エスパーなの?
「むしろマサは本気でばれてないと思ってたわけ?」
「あれだけ杉藤さんを意識してるとこ見せられたらなー」
「昼休みにいっしょにいるところを見たしな。恋人オーラ出してんじゃねえよ」
完全に言い逃れできない状況だった。ごめん千夏ちゃん。全然隠せていなかったよ……。
「で、俺らに相談って何よ?」
からかわれることを覚悟していたものだけど、割と普通に相談を聞いてくれそうだ。
「実はな……、彼女に、キスしたんだよ」
「はい、リア充爆発しろ」
「俺、こんなにもマサにがっかりしたの初めてだわー」
「相談に見せかけた自慢か? どうやら俺を怒らせたいらしいな……」
一気に場が険悪なものになった。とくに彼女いない歴=年齢の奴が恐ろしい目になっている。
「待て待て誤解だ! 話を最後まで聞いてくれ」
俺は千夏ちゃんに(一応名前は伏せたまま)キスをしてから距離をとられてしまうわ、まともに会話ができなくなって大変なのだと説明した。
「それって好き避けじゃね?」
「俺もそう思ったー」
「まあ反応を聞くに、嫌われていないのは確かだな」
好き避け、か。
俺もそうは思っていたけど、人からそう言われて確信できた。やっぱり千夏ちゃんは強引にキスをされて、俺が嫌いになったわけじゃないのだ。
「じゃあ、別に不安になんなくてもいいんだよな?」
「向こうが話しかけてくるまで普通にしとけばいんじゃね?」
「むしろ落ち着くまで距離とるー、とかは不誠実っしょ」
「……爆ぜろ」
一人だけアドバイスでもなんでもないんですけど!?
「わかった。みんな、ありがとな」
でも相談したおかげで変に落ち込まなくて済みそうだ。困った時こそ友達の大切さを教えられる。
※ ※ ※
昼食を済ませて、みんなといっしょに教室に戻るため廊下を歩いていた。
経験上人気のないところは危険なので、人が多い廊下を歩くように気をつける。
「あっ、ちょっとそこの君達」
そこで見かけた三人組の男子を呼び止めた。
「……何?」
それぞれ違ったふてぶてしい顔をしていた。ふてぶてしさにも種類があるんだな。
三人ともぱっと見優等生である。まあ実際に優等生らしい。外面だけはな。
「君達、二年A組だよね?」
「そうだけど」
「俺、二年D組の佐野将隆っていうんだけどさ」
ちょうど千夏ちゃんがいなくて良かった。彼女がいる時に、こんなことはできないからな。
「ちょっと顔貸してくれないか?」
俺は大迫をいじめていたという連中に、優しくお願いをしたのだった。
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